要点:OKRは「変化の方向付け」、KPIは「日々の運転メーター」。両者は対立せず、OKR →(翻訳)→ KPI →(積み上げ)→ KGIの一本線で設計します。
1. OKRとKPIの本質的な違い
観点 | OKR | KPI |
---|---|---|
目的 | 変化を起こす焦点合わせ(戦略テーマを短期で前進) | 恒常業務の健全運転(日々の行動を数値で管理) |
構成 | O(目的)+ KR(主要な成果:四半期の成果目標) | 先行/中間指標(分子分母・更新頻度・責任者を定義) |
時間軸 | 四半期中心(60〜80%達成を想定するストレッチ) | 日次〜週次でモニタリングし、即行動へ反映 |
例 | O:商談の質とスピードを劇的に引き上げる KR:決裁者同席率60%/初回提案中央値5営業日 |
週のアポ獲得件数15/決裁者招待テンプレ使用率90%/上位プラン提示率70% |
OKRは「変えたいこと」を定め、KRで「変化が進んだ兆し」を数値化。KRはKPIに翻訳され、現場の行動に落ちる——この接続がうまくいけば、KGI(最終成果)へ貫通します。
2. KRをKPIへ翻訳する5ステップ
- O(目的)を1行に要約:例「新規商談の質とスピードを両立させる」
- KRを“先行化”して定義:遅行を避け、行動で動かせる式に言い換え
× 売上3,000万円 → ○ 決裁者同席率60%/初回提案中央値5営業日/上位プラン提示率70% - KR→KPIへ分解:分子分母・対象・取得元・更新頻度・責任者を明確に
- しきい値設定:ターゲット(達成70%)+ストレッチ(挑戦)を二段階
- 運用リズムに組み込み:日次=先行KPI/週次=KR達成の進捗/月次=KGI波及
翻訳の具体例(営業)
O:新規商談の質とスピードを引き上げる KR1:決裁者同席率 60% KR2:初回提案の中央値 5営業日 KR3:上位プラン提示率 70% → KPI(日次/週次) ・決裁者招待テンプレ使用率 90%(CRMログより) 〈日次〉 ・初回提案テンプレ適用率 95%(DMSタグより) 〈日次〉 ・週のアポ獲得件数 15(Calendar連携) 〈日次〉 ・上位プラン提示率 70%(見積DWH) 〈週次〉
ダッシュボード設計の要点は別記事で詳述:KPIダッシュボードの作り方
3. 良いKR / 悪いKRの見分け方
良いKRの条件(チェックリスト)
- 先行性:上げれば数週〜数ヶ月後のKGIが上がる仮説が説明できる
- 可制御性:現場が今日から行動で動かせる(外部依存度が低い)
- 測定可能性:システムで自動取得でき、定義が一意
- 頻度:最低でも週次で更新できる
- 歪み耐性:“数字合わせ”のゲーム化が起きにくい
例:悪いKR → 良いKRへの言い換え
悪いKR(NG) | 理由 | 良いKR(OK) |
---|---|---|
四半期売上3,000万円 | 遅行で後追い、日々の行動に翻訳できない | 決裁者同席率60%/初回提案中央値5営業日 |
フォロワー1万人 | 虚栄指標。KGIへの因果が弱い | プロフィール遷移率4%/DM返信時間中央値2h |
納期遅延0件 | 結果管理で事前に動けない | 工程間WIP上限遵守率90%/一次不良48h是正率85% |
KPIの良い例は実例編へ:成果につながるKPI例10選
4. ケース別の使い分け(営業/ブログ・SEO/受注生産)
4-1. BtoB営業
O:新規商談の質を高め、提案スピードを加速する
KR:決裁者同席率60%、初回提案中央値5営業日、上位プラン提示率70%
KPI:招待テンプレ使用率/提案テンプレ適用率/アポ獲得件数/上位提示率
運用:日次10分で差分→今日のアクションを決定。週次でKR達成率と受注率/リードタイムの波及を検証。運用編
4-2. ブログ/SEO
O:検索流入の質とコンバージョンを同時に伸ばす
KR:上位表示率(TOP10)を20%→35%/CVR 1.8%→2.5%
KPI:週の新規記事本数、既存リライト本数、公開7日以内の内部リンク数、CTA設置率、タイトルABテスト本数
運用:公開から7日で3本の関連内部リンクを貼るルールを“出荷条件”化。実例編
4-3. 受注生産(リードタイム短縮)
O:ボトルネックの滞留を解消し、オンタイム率を改善
KR:平均リードタイム−20%/オンタイム率+10pt
KPI:工程間WIP上限遵守率、段取り替え平準化率、一次不良48h是正完了率、検査スロット稼働率
運用:現場サイネージでWIP超過を即時可視化し、リーダーへアラート。月次でKPI→KGIの係数を更新。ダッシュボード設計
5. ダッシュボードとレビューの型(OKR×KPI連携)
ビューの分離
- 日次ビュー(KPI):先行KPI 3〜5個、目標線・移動中央値・前日比。未更新アラートとRunbookを常設。
- 週次ビュー(OKR):KR達成度、施策のBefore/After、次週の実験2本。
- 月次ビュー(KGI):成果の波及と係数見直し(KPI→KGI)。
実装ガイド:KPIダッシュボードの作り方/日々の回し方:運用編
会議テンプレ(使い回し可)
【日次10分】KPI差分→今日やること1〜3(担当・締め) 【週次30分】勝ち/負け施策共有→次週の実験2本(仮説・DoD) 【月次60分】KR達成度・KGI波及→翌月の重点テーマを1つに絞る
6. 失敗あるあるとリカバリー
- 失敗1:KRが“結果”(遅行)ばかり
→ 先行化(返信時間、提示率、一次不良の是正時間など)へ言い換え。 - 失敗2:KPIが多すぎて回らない
→ 3〜5個に絞る。残りは補助KPIとしてモニタのみ。 - 失敗3:手入力だらけで更新が止まる
→ ETL自動化・タグ/命名規約を先に整備。更新できない指標は外す。 - 失敗4:数字合わせ(Goodhartの法則)
→ ガードレールKPI(品質・安全・満足)を併置し、歪みを検知。
詰まったらこちらで再設計:KPIが機能しない時の見直し方
7. 定義テンプレ(OKR→KPI接続)
OKR定義シート
【Objective(目的)】____________________ 【KR1】__________________(先行化できているか?) 【KR2】__________________ 【KR3】__________________ 【期間】202X/QX(開始日〜終了日) 【責任】オーナー:___/共同:___ 【レビュー頻度】週次(○曜)/月次(○日)
KPI定義シート(抜粋)
指標名 | 定義(分子/分母) | 対象/除外 | 取得元 | 頻度 | 責任 |
---|---|---|---|---|---|
決裁者招待テンプレ使用率 | テンプレ使用商談 / 全商談 | 採用・協業案件除外 | CRMログ | 日次 | Sales Ops |
初回提案テンプレ適用率 | テンプレ適用提案 / 全初回提案 | 特注案件除外 | DMS | 日次 | Sales |
上位プラン提示率 | 上位プラン提示案件 / 全見積案件 | 無償見積除外 | 見積DWH | 週次 | Sales |
8. 導入ロードマップ(4週間で立ち上げ)
- Week1:OとKRの先行化/KPI候補の洗い出し→3〜5個に絞る
- Week2:定義シート完成・ETLとダッシュボードβ(目標線・中央値・差分)
- Week3:日次/週次の会議テンプレ導入・アラートRunbook運用
- Week4:月次レビュー→効かないKPIの入替・係数(KPI→KGI)更新
会議テンプレやRunbookは運用編にまとまっています:KPIを形骸化させない習慣化のコツ
9. まとめ
OKRは「変化の焦点」、KPIは「日々の舵」。KRを先行化し、KPIへ正しく翻訳できれば、日々の行動がKGIへ貫通します。ダッシュボードは日次/週次/月次で役割を分け、軽量な会議リズムで回しましょう。詰まったら、見直しフレームで再設計。実務で使えるKPI例はこちらを参照してください。
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