「追っているのにKGIが動かない」「会議が反省会で終わる」——それ、KPIの欠陥ではなく設計と運用のズレかもしれません。
設計の基本はKGI直結KPIの思考法(設計編)、日々の回し方は習慣化のコツ(運用編)、ダッシュボード実装はKPIダッシュボードの作り方を併読ください。
- 1. まず“症状”をはっきりさせる(観察リスト)
- 2. 診断フレーム:5レイヤーで原因を特定する
- 3. 計測の健全性:SLOと監視のセットアップ
- 4. 遅行→先行への“言い換え辞典”(置き換えテンプレ)
- 5. Goodhartの法則を無効化する(歪み対策)
- 6. ボトルネックの同定:どこが律速しているか?
- 7. 再設計:KPI定義シート(テンプレ)
- 8. 検証:短サイクルAB(2週間)で“効くか”を見切る
- 9. ケーススタディ(営業/SEO/製造)
- 10. アラート設計とRunbook(止めない仕組み)
- 11. 4週間で“再起動”する実行計画
- 12. ミスしやすいポイントと即対策
- 13. 判断支援ツール:KPI入替の意思決定表
- 14. すぐ使えるワークシート
- 15. まとめ:KPIは“変え続ける”もの
1. まず“症状”をはっきりさせる(観察リスト)
- 遅すぎる:週次でしか数値が更新されず、日々の行動に繋がらない。
- 動かない:頑張ってもKPIがほぼ横ばい(天井/律速要因が別にある)。
- 歪む:数字合わせ(Goodhartの法則)で本質が悪化する。
- バラつく:計測・定義のブレで議論が毎回リセットされる。
- 面倒:人手更新が多く、数週間で停止する。
症状が1つでも当てはまるなら、次の「診断フレーム」に沿って分解します。
2. 診断フレーム:5レイヤーで原因を特定する
レイヤー | 診断観点 | 典型的なNG | 一次対策 |
---|---|---|---|
定義 | 分子/分母、対象/除外、期間、締め時刻、責任 | 「問い合わせ件数」の重複・例外未定義 | 定義シート化し、会議前に合意 |
計測 | 自動化・欠損・遅延・二重計上 | 月初にまとめ入力/スナップショットなし | ETL/ELT自動化・日次スナップショット保存 |
先行性 | 日次で動かせるか/結果の後追いか | 売上・利益ばかりで対処が遅い | 返信時間・提示率・供給量などへ置換 |
可制御性 | 現場が自力で変えられるか | 外部要因依存(季節・広告入札) | 行動近接のKPIに変更 |
運用 | リズム・アラート・Runbook | 週1会議だけ・“眺める会” | 日次10分・アラート+Runbook導入 |
定義と計測に問題が残ったままの「施策議論」は時間の無駄です。まずはデータの足場固めを。
3. 計測の健全性:SLOと監視のセットアップ
- Freshness:毎朝9:00(JST)更新完了。遅延時は自動通知。
- Completeness:欠損率1%未満。重大欠損は画面に警告。
- Validity:定義シート準拠100%。スキーマ/ビジネスルール検証。
- 履歴:日次スナップショット保存(係数分析&回帰検証に必須)。
実装の詳細はダッシュボード設計の「データSLO」を参照。
4. 遅行→先行への“言い換え辞典”(置き換えテンプレ)
よくある“遅行KPI” | 先行化の例 | 説明 |
---|---|---|
売上・受注数 | 決裁者同席率/初回提案までの中央値/上位プラン提示率 | 勝率×スピード×単価に効く入力を管理 |
PV・収益 | 週の新規記事本数/リライト本数/内部リンク数/CTR AB本数/CTA設置率 | 供給量・品質・導線改善へ分解 |
オンタイム率 | 工程間WIP上限遵守率/一次不良48h是正率/段取り平準化率 | 待ちと手戻りを源流で潰す |
各領域のサンプルはKPI例10選(実例編)が参考になります。
5. Goodhartの法則を無効化する(歪み対策)
- ガードレールKPI:品質・安全・満足(NPS/不良率/クレーム件数等)を1本併置。
- 率×件数のペア運用:率だけ、件数だけの片追いを防ぐ。
- レビューの視点:達成理由を「再現可能な行動」で言語化(偶然/一時的施策を除外)。
6. ボトルネックの同定:どこが律速しているか?
「全体最適」を崩すのは、目立たない律速工程です。以下の順で当たりをつけます。
- フロー分解:リード→アポ→商談→提案→受注(営業例)などの連鎖を式に。
- 弾性分析:各KPIを1σ動かした時のKGI変化を推定(過去スナップショットから回帰)。
- P90監視:中央値以外にP90(最悪ケース)で滞留ポイントを可視化。
- 局所実験:最有力工程で2週間の施策を当て、反応を確認。
7. 再設計:KPI定義シート(テンプレ)
項目 | 記入例 |
---|---|
指標名 | 初回提案までの中央値 |
定義(分子/分母) | 初回打合せ→提案送付の営業日差の中央値(外れ値はP90で別監視) |
対象/除外 | 特注案件除外・社内案件除外 |
取得元 | CRM+DMS(テンプレタグ) |
更新頻度/締め | 週次/月曜10:00(JST) |
目標/ストレッチ | 5営業日/3営業日 |
責任(RACI) | R:Sales / A:営業Mgr / C:Ops / I:全員 |
定義が合意されて初めて、ダッシュボードの数値が意思決定に使えます。
8. 検証:短サイクルAB(2週間)で“効くか”を見切る
- 仮説:決裁者同席率↑で受注率↑・リードタイム↓。
- 施策:招待テンプレ導入+初回メールに「意思決定者の同席を推奨」記載。
- 観測指標:同席率、受注率、初回提案中央値(KPI→KGIへの波及)。
- 判定基準:同席率+10ptかつ受注率+3pt or リードタイム−2営業日。
- 処置:有効なら標準化、無効なら代替KPIへ即切替。
検証の粒度は「2週間で有意差の兆しが出るか」。ムダに長く引き伸ばさないのがコツ。
9. ケーススタディ(営業/SEO/製造)
9-1. BtoB営業:受注が伸びない
- 症状:アポ件数は達成、受注未達。
- 診断:決裁者同席率が40%で頭打ち。初回提案中央値は9営業日。
- 再設計:KPI=決裁者同席率/初回提案中央値/上位プラン提示率。
- 検証:テンプレ導入・提案部品化で同席+15pt、中央値−4日、受注+6pt。
9-2. ブログ/SEO:PVが停滞
- 症状:記事は増えているのに検索流入が伸びない。
- 診断:内部リンクが薄く、公開7日以内のリンク追加が0〜1本。
- 再設計:KPI=新規記事本数/リライト本数/内部リンク数/タイトルAB本数/CTA設置率。
- 検証:7日以内に関連3本へリンクを出荷条件化→表示回数+32%、CVR+0.6pt。
9-3. 受注生産:オンタイム率が安定しない
- 症状:月により遅延が多発。
- 診断:ボトルネック工程でWIP上限超過が常態化。一次不良の是正完了に4〜7日。
- 再設計:KPI=WIP上限遵守率/一次不良48h是正率/検査スロット稼働率。
- 検証:サイネージ化と通知導入でリードタイム−21%、オンタイム+11pt。
領域横断のKPIは実例編を参照。
10. アラート設計とRunbook(止めない仕組み)
- 固定しきい値:例「週アポ < 10件」→ISリーダーに即通知。
- 統計的検知:移動中央値−2σを2日連続で下回ったらアラート。
- Runbook:通知に切り分け手順・一次対策・責任者・SLA(対応期限)を添付。
事象:ダッシュボード更新遅延(9:00未更新) 切り分け:ETL失敗?ソース停止?認証期限? 一次対策:再実行→部分手動更新→影響範囲メモ SLA:10分以内に一次報告、60分以内に復旧or代替
通知と運用の型は習慣化のコツ(運用編)で詳説。
11. 4週間で“再起動”する実行計画
- Week1:症状の特定→診断フレームで原因分解→定義シート更新。
- Week2:ETL/自動化・SLO整備→日次ビューのβ版(目標線・中央値・差分)。
- Week3:アラート+Runbook稼働→2週間ABを2本仕掛ける。
- Week4:効果判定→効かないKPIの入替→係数(KPI→KGI)更新。
12. ミスしやすいポイントと即対策
- “率だけ”追う:件数とペアにする(例:商談化率×接触件数)。
- KPIが多すぎ:3〜5個に絞る。残りは補助KPIで監視のみ。
- 季節性を無視:前週同曜日比・移動中央値で判定。
- 人手更新:自動化できないKPIは外す勇気。
13. 判断支援ツール:KPI入替の意思決定表
評価軸 | 基準 | 閾値 | 判断 |
---|---|---|---|
先行性 | 2〜8週でKGIに波及 | ×=入替候補 | ×なら削除 |
可制御性 | 現場が日次で操作可 | ×=入替候補 | ×なら削除 |
データ品質 | 9:00更新/欠損<1% | ×=改善要 | ×なら一時停止 |
効果弾性 | 1σ上昇でKGI改善 | ×=入替候補 | ×なら削除 |
14. すぐ使えるワークシート
14-1. KPI再設計キャンバス
【対象KPI】__________________ 【症状】遅い/動かない/歪む/バラつく/面倒 【原因診断(5レイヤー)】定義/計測/先行性/可制御性/運用 【置き換え案】遅行→先行、率→率×件数、ガードレール 【データSLO】Freshness/Completeness/Validity/履歴 【検証計画】仮説/施策/観測指標/期間/判定基準/担当 【決定】廃止/継続/置換/保留(期限)
14-2. 会議台本(再起動版)
【日次10分】KPI差分→今日の打ち手1〜3(担当/締め)→アラート対応 【週次30分】勝ち/負け施策→2週間ABの進捗→次週の実験2本 【月次60分】KPI→KGIの係数更新→入替判断→翌月の重点テーマ1つ
15. まとめ:KPIは“変え続ける”もの
KPIが機能しない時に必要なのは、根性ではなくメカニズムの再設計です。
定義と計測を整え、遅行を先行に言い換え、ガードレールで歪みを抑え、短サイクルで検証する。
今日から再起動したい方は、以下の関連記事を順にどうぞ。
コメント