KGI(最終ゴール指標)は多くの場合「遅行指標(ラギング)」です。売上、利益、契約数、合格率、離職率などは「行動の結果」であり、見た時点ではもう手遅れ。
対して、KPIは「先行指標(リーディング)」を中心に据えます。例:商談化率、初回返信時間、記事公開本数、SERPクリック率、歩留まり、リードタイムなど。
用語に不安があれば、まずは基礎編へ:
そもそもKGIとKPIの違いとは?初心者にもわかりやすく解説
KGI直結KPIの設計7ステップ
- KGIを1行で定義(数字+期日+範囲)
例:「2026年3月期に営業利益3.0億円を達成」 - ドライバ分解(KPIツリー化)
売上=商談数×受注率×平均単価 − 返金/解約、など“因数分解”する。 - 先行指標候補を洗い出し
各ドライバを左右する“行動に近い”指標を列挙(例:1日架電数、初回返信時間、記事公開本数、一次試作のサイクルタイム)。 - 可制御性テスト
担当者が「自分の努力で今日から増減できるか?」で絞る。できないものはKGI寄り=除外。 - 定義と計測方法を厳密化
分子分母・対象期間・例外条件・取得元・更新頻度・責任者を明文化。 - 目標値を設定
ベースライン→現実的ターゲット→ストレッチの3水準。季節性・キャパ・ボトルネックも考慮。 - 運用リズムを決める
日次(先行指標)/週次(短期結果)/月次(KGI進捗)でレビュー。改善の仮説→実験→検証→定着を回す。
KPIツリー:分解の実例(営業×コンテンツ×製造)
例1:BtoB新規売上
層 | 指標 | タイプ | 先行KPI例(可制御) |
---|---|---|---|
KGI | 新規売上◯億円/年 | 遅行 | — |
KPI | 受注数=商談数×受注率 | 中間 | — |
先行 | 商談数 | 先行 | 週のアポ獲得件数/初回接触→アポ化率/アウトバウンド通話数 |
先行 | 受注率 | 先行 | 初回提案までの所要日数/決裁者同席率/失注理由のタグ付完了率 |
先行 | 平均単価 | 先行 | 上位プラン提示率/見積のオプション添付率 |
例2:ブログ/SEOの収益KGI
層 | 指標 | タイプ | 先行KPI例(可制御) |
---|---|---|---|
KGI | 月間収益◯円/PV◯万 | 遅行 | — |
KPI | 検索流入=表示回数×CTR×順位 | 中間 | — |
先行 | 順位に効く入力 | 先行 | 週の新規記事本数/既存記事リライト本数/内部リンク追加数/EEAT改善チェック実施率 |
先行 | CTRに効く入力 | 先行 | タイトルABテスト本数/メタディスクリプション見直し件数 |
先行 | CVに効く入力 | 先行 | CTA設置率/商品比較表更新件数/計測タグの健全性チェック率 |
例3:受注生産(製造リードタイム短縮)
層 | 指標 | タイプ | 先行KPI例(可制御) |
---|---|---|---|
KGI | 平均納期◯日短縮/オンタイム率◯% | 遅行 | — |
KPI | 総リードタイム=待ち+加工+検査 | 中間 | — |
先行 | 待ち時間短縮 | 先行 | 工程間WIP上限遵守率/優先順位の日次更新率 |
先行 | 加工効率 | 先行 | 段取り替え回数の平準化率/不具合一次是正の48h完了率 |
先行 | 検査ボトルネック | 先行 | セルフチェック実施率/検査スロット稼働率 |
良いKPIの5条件(チェックリスト付き)
- 先行性:動かせば数週〜数ヶ月後のKGIに効く。
- 可制御性:担当者が今日から行動で変えられる。
- 明確性:誰が見ても定義が一意(分母分子・対象・例外)。
- 測定可能性:自動取得 or 低負荷で収集できる。
- 頻度:日次〜週次で更新され、意思決定に使える。
クイック診断(Yes/No)
- そのKPIを頑張っても、1ヶ月後のKGIが上がらないなら「外す」。
- 人が入力しないと更新されないなら「自動化を先に」。
- 数が多すぎるなら「3〜5個に絞る」。
- レート(率)とカウント(件数)をセットで追う。
- ガードレール(品質・安全)のKPIを1つ入れる。
目標値の置き方(ベースライン→ストレッチ)
- 現状把握:直近8〜12週の中央値をベースラインに。
- キャパ・季節性:人員/稼働日/繁忙期を織り込む。
- 二段階設定:ターゲット(確度70%)+ストレッチ(挑戦)。
- 先行→中間→KGIの貫通:先行KPIの上振れが、中間KPI→KGIにどの程度波及するか過去データで係数化。
例:
「週の新規記事本数:2→4(ターゲット)/6(ストレッチ)」
「公開から7日以内の内部リンク追加:0→5(ターゲット)」
運用設計:ダッシュボード/リズム/改善ループ
1. ダッシュボード原則
- 先行KPIは日次、中間は週次、KGIは月次で1画面。
- 目標線・前期比・移動中央値を表示。スクショで共有できる簡潔さ。
- 未更新アラートとデータ品質(Missing/Delay率)を可視化。
2. リズム
- デイリー10分:先行KPIの差分確認→今日の行動に落とす。
- ウィークリー30分:仮説→施策→結果の振り返り。
- マンスリー60分:KGI進捗とKPI係数の見直し(効いている/いない)。
3. 改善ループ(簡易OKR)
- 課題:KGIギャップの最大要因は何か?
- 仮説:最小の行動で最大の変化を生む打ち手は?
- 実験:2週間のAB/DoD(完了条件)を決める。
- 検証:係数の更新(例:記事本数→表示回数の弾性を再計算)。
- 定着:勝ちパターンを標準作業化し、ダッシュボードに組み込む。
失敗あるあると回避策
- 虚栄指標(Vanity Metrics)を追う:フォロワー数だけ・総PVだけ → 転換率や質の指標とセットで。
- KPIが多すぎる:人は同時に3〜5個までしか本気で回せない。
- 定義が曖昧:「問い合わせ件数」= 電話+メール+フォーム?重複は?定義書を作る。
- 後追いばかり:先行KPIが日次で動く状態を先につくる。
- 更新が手作業:最初に自動化(ETL/タグ設計/命名規則)。
そのまま使えるKPI設計テンプレート
1枚サマリー(例)
【KGI】2026/03 売上 3.0億円 【KPIツリー要約】商談数 × 受注率 × 平均単価 【先行KPI(3〜5)】 1) 週のアポ獲得件数(目標:25 / 週)責任:Inside Sales 2) 初回提案までの中央値(目標:5営業日)責任:Sales 3) 決裁者同席率(目標:60%)責任:Sales 4) 上位プラン提示率(目標:70%)責任:Sales 【データ源・更新頻度】CRM自動集計/日次 9:00 更新 【ガードレール】NPS ≧ 30 / クレーム件数 ≦ 2件/月 【レビュー】日次10分 / 週次30分 / 月次60分
定義シート(抜粋)
指標名 | 定義(分子/分母) | 対象/除外 | 取得元 | 頻度 | 責任 |
---|---|---|---|---|---|
アポ獲得件数 | 今週新規に日程確定した打合せ数 | 再商談除外 | CRM(Calendar連携) | 日次 | IS |
決裁者同席率 | 決裁者同席商談数 / 全商談数 | 採用/協業案件除外 | CRM(参加者属性) | 週次 | Sales |
記事公開本数 | 当週公開記事の件数 | 下書き・非公開除外 | CMS | 日次 | 編集 |
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