KPIダッシュボードの作り方|日次・週次・月次で成果を見える化(完全版)

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ダッシュボードは「飾り」ではありません。

成果を出すチームのダッシュボードは、その日の行動が変わるよう設計されています。

本稿では、KGIに直結するKPIを前提に、ダッシュボードを
①目的から逆算して情報設計し、②短いリズムで回し、③データ品質と運用を仕組み化する方法を、テンプレと現場例つきで解説します。

併読推奨:KPI設計の思考法(設計編)
KGIとKPIの違い(基礎編)
使えるKPI例10選(実例編)
KPIを形骸化させない運用のコツ(運用編)

1. まず「何のためのダッシュボードか」を1行で定義する

ダッシュボードは目的の数だけ存在します。最初に次の問いへ1行で答えてください。

  • 意思決定:この画面を見て、誰が何を決めるのか?(今日の打ち手/優先順位/アラート対応)
  • 時間軸:日次・週次・月次のどれを支援するのか?(混在させない)
  • 範囲:チーム単位/個人単位/プロダクト・ライン単位のどれか?

例:営業部・日次:先行KPIを見て、今日やることを1〜3個決めるための画面」

2. ペルソナ設計(誰のための画面か)

代表的な3ペルソナと、それぞれの情報要求/禁則を定義します。

ペルソナ 欲しい情報 不要/禁則 典型アクション
営業マネージャー アポ件数、決裁者同席率、初回提案中央値、上位プラン提示率 案件詳細の冗長リスト 不足指標の担当アサイン・今日の打ち手決定
編集責任者(ブログ/SEO) 週の新規記事本数、リライト本数、内部リンク追加、CTR改善本数、CTA設置率 過剰な色分け・小数点過多 今週のリライト対象選定・タイトルAB実行
製造現場リーダー 工程間WIP上限遵守率、一次不良48h是正率、検査スロット稼働率 月次の総括だけの静的数字 WIP超過の解消・人員再配置・是正指示

3. ビュー分割:日次/週次/月次を混ぜない

1画面1目的の原則に従って、ビューを分けます。

  • 日次ビュー(先行KPI):3〜5指標+前日比・7日中央値・目標線・アラート。
    目的:今日やることを決める。会議台本は運用編参照。
  • 週次ビュー(中間KPI):率×件数の関係、施策のBefore/After、チーム比較。
  • 月次ビュー(KGI):KPI→KGIの波及係数、季節性、四半期OKR達成度(OKRとの接続)。

4. 指標セットの作り方(先行性×可制御性)

ダッシュボードには「効くKPI」だけを載せます。判断の基準は以下の5つ。

  1. 先行性:上げ下げで数週〜数ヶ月後のKGIが動く
  2. 可制御性:担当が今日から行動で変えられる
  3. 明確性:分子・分母・対象・例外の定義が一意
  4. 測定可能性:自動取得できる(人手更新は最小)
  5. 頻度:日次または週次で更新され意思決定に使える

迷ったら実例へ:KPI例10選

5. 画面レイアウトとUI設計(実務ルール)

  • ヒーローカード:最重要KPIを左上に(Fパターン)。目標との差、前日比、7日中央値。
  • カードの順序:「量→質→スピード→品質ガード」の順。
  • 1カード=1メッセージ:注釈は最小限。色は意味で限定(緑=達成、赤=未達)。
  • グリッド:12カラム基準。モバイルは1列化し、最重要3枚だけ表示。
  • 注釈ログ:施策メモ・異常理由はカードに紐づくコメントとして残す(監査に有用)。

6. チャート選定ガイド(迷ったらこれ)

目的 適切な表示 備考
時系列の傾向 折れ線+7日中央値+目標線 平均より中央値がノイズに強い
率×件数の関係 散布図 改善余地の可視化に最適
カテゴリ比較 横積み棒(3〜5カテゴリ) 色は最小、凡例を明快に
差分・達成状況 数値カード 前日比/前週同曜日比を併記

避けたい:3Dグラフ、色の乱用、指標の詰め込み、二軸の多用。

7. 差分とロバストな計算方法

  • 前日比:(今日 − 昨日) / 昨日
  • 前週同曜日比:(今日 − 7日前) / 7日前(季節・曜日要因を除去)
  • 移動中央値:過去7日/14日の中央値(外れ値に強い)
  • P90/P95:「最悪ケース」の監視に有効(初回提案リードタイムなど)

8. アラート設計(固定しきい値+統計的検知)

行動に直結するアラートだけを鳴らします。過剰通知は無視の温床です。

  • 固定しきい値:例「アポ獲得 < 10件/週」
  • 統計的しきい値:移動中央値 − 2σ を下回ったら通知
  • 連続条件:「2日連続未達」などの組み合わせでノイズを抑制
  • Runbook:通知には切り分け・一次対策・責任者を添付(運用編テンプレ

9. データSLO(品質基準)とエラーバジェット

項目 基準 測り方 対処
Freshness 毎朝 9:00 更新完了 最終更新時刻の自動記録 遅延時は自動通知→手動リフレッシュ
Completeness 欠損率 1%未満 行レベルの欠損監視 ETL再取り込み/例外レポート
Validity 定義シート準拠 100% スキーマ検証・ビジネスルール バリデーション失敗で公開停止

エラーバジェット:月間の許容遅延・欠損の上限を明示し、超過時は機能追加より信頼性改善を優先。

10. データモデルとETL/ELT(最小構成)

  • 取得元の一本化:営業=CRM、SEO=CMS+Search Console、製造=MES/QMS。
  • 命名規則:指標は domain_metric_grain(例:sales_appointments_daily)。
  • スケジュール:毎朝9:00(JST)自動更新/失敗時はリトライ→通知。
  • 履歴管理:日次スナップショットを保存(後日の係数分析用)。

11. 権限・監査・変更管理

  • 閲覧:原則全員(透明性)。
  • 編集:データ責任者のみ(変更ログ必須)。
  • 注釈:施策・異常の理由をカードに紐づけて残す(学習資産化)。
  • 変更申請:指標の追加/廃止は軽量RFC(目的・定義・影響範囲・ロールバック)。

12. 現場別サンプル画面(構成例)

12-1. 営業(日次ビュ—)

  • カード1:週のアポ獲得件数(目標線/前日比/7日中央値)
  • カード2:決裁者同席率(散布:同席率×受注率)
  • カード3:初回提案までの中央値+P90(折れ線)
  • カード4:上位プラン提示率(数値カード+部署別棒)
  • アラート:2日連続同席率<50% → 招待テンプレの使用率をRunbook提示

12-2. ブログ/SEO(日次〜週次)

  • カード1:新規記事本数(週計)/リライト本数
  • カード2:公開7日以内の内部リンク追加数(記事あたり)
  • カード3:タイトルABテスト本数とCTR差分
  • カード4:CTA設置率(記事数に対する比率)

12-3. 受注生産(現場)

  • カード1:工程間WIP上限遵守率(時系列)
  • カード2:一次不良48h是正完了率(棒)
  • カード3:検査スロット稼働率(時帯別ヒートマップ)

13. デザイン原則(見やすさは“意思決定速度”)

  • 色は意味に限定(緑=達成、赤=未達、灰=参照)。
  • 小数点は必要最小(%は小数1桁まで)。
  • 単位と期間を凡例に常設(例:/週、営業日)。
  • アクセシビリティ:コントラスト比、色覚多様性に配慮。
  • ダークモードは夜間監視向けに用意(現場利用が多い場合)。

14. ローンチ手順(4週間ロードマップ)

  1. Week1:目的定義・ペルソナ・指標選定(3〜5)・定義シート作成(設計編
  2. Week2:ETLとデータSLO整備(9:00更新・欠損監視)。βダッシュボード(目標線・中央値・差分)。
  3. Week3:アラート+Runbook実装。日次10分/週次30分の運用開始。
  4. Week4:月次レビューでKPI→KGIの波及を点検。効かないカードは入替。

15. 仕様テンプレ(コピーして使えます)

15-1. 指標定義シート(抜粋)

指標名 定義(分子/分母) 対象/除外 取得元 更新頻度 締め時刻 責任
週のアポ獲得件数 当週に日程確定した初回面談数 / 1週 再商談除外 CRM+Calendar 日次 09:00 JST Inside Sales
初回提案中央値 初回打合せ→初回提案の営業日差の中央値 特注案件除外 CRM+DMS 週次 月曜 10:00 Sales
内部リンク追加数 新規記事1本あたり公開7日以内の既存→新規リンク本数 非公開・下書き除外 CMS+SEOクローラ 週次 月曜 10:00 編集チーム

15-2. カード仕様シート

【カード名】決裁者同席率
【目的】受注率とリードタイムに直結する先行KPIを日次で監視
【表示】数値カード+時系列折れ線(7日中央値・目標線)+散布(同席率×受注率)
【差分】前日比・前週同曜日比
【アラート】2日連続で50%未満 → 招待テンプレ使用率カードを同時点灯
【注釈】施策メモ(メールテンプレ修正、経営同席要請など)

16. よくある失敗と回避策

  • 失敗:指標を詰め込みすぎ → 3〜5指標に絞り、残りは折り畳み。
  • 失敗:人手更新が多い → ETL自動化・タグ/命名規約を先に整備。
  • 失敗:“眺める会”になる → 日次10分で今日の打ち手を決め、翌朝検証。
  • 失敗:色がうるさい → 意味に紐づく最小色だけ使用。

17. まとめ

ダッシュボードは行動を変える装置です。
目的→指標→ビュー→差分→アラート→運用の順で設計し、データSLOとRunbookで“止まらない”仕組みを作りましょう。
設計や指標例・運用の型は以下を参照してください。

 

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