ダッシュボードは「飾り」ではありません。
本稿では、KGIに直結するKPIを前提に、ダッシュボードを
①目的から逆算して情報設計し、②短いリズムで回し、③データ品質と運用を仕組み化する方法を、テンプレと現場例つきで解説します。
併読推奨:KPI設計の思考法(設計編) /
KGIとKPIの違い(基礎編) /
使えるKPI例10選(実例編) /
KPIを形骸化させない運用のコツ(運用編)
- 1. まず「何のためのダッシュボードか」を1行で定義する
- 2. ペルソナ設計(誰のための画面か)
- 3. ビュー分割:日次/週次/月次を混ぜない
- 4. 指標セットの作り方(先行性×可制御性)
- 5. 画面レイアウトとUI設計(実務ルール)
- 6. チャート選定ガイド(迷ったらこれ)
- 7. 差分とロバストな計算方法
- 8. アラート設計(固定しきい値+統計的検知)
- 9. データSLO(品質基準)とエラーバジェット
- 10. データモデルとETL/ELT(最小構成)
- 11. 権限・監査・変更管理
- 12. 現場別サンプル画面(構成例)
- 13. デザイン原則(見やすさは“意思決定速度”)
- 14. ローンチ手順(4週間ロードマップ)
- 15. 仕様テンプレ(コピーして使えます)
- 16. よくある失敗と回避策
- 17. まとめ
1. まず「何のためのダッシュボードか」を1行で定義する
ダッシュボードは目的の数だけ存在します。最初に次の問いへ1行で答えてください。
- 意思決定:この画面を見て、誰が何を決めるのか?(今日の打ち手/優先順位/アラート対応)
- 時間軸:日次・週次・月次のどれを支援するのか?(混在させない)
- 範囲:チーム単位/個人単位/プロダクト・ライン単位のどれか?
例:「営業部・日次:先行KPIを見て、今日やることを1〜3個決めるための画面」
2. ペルソナ設計(誰のための画面か)
代表的な3ペルソナと、それぞれの情報要求/禁則を定義します。
ペルソナ | 欲しい情報 | 不要/禁則 | 典型アクション |
---|---|---|---|
営業マネージャー | アポ件数、決裁者同席率、初回提案中央値、上位プラン提示率 | 案件詳細の冗長リスト | 不足指標の担当アサイン・今日の打ち手決定 |
編集責任者(ブログ/SEO) | 週の新規記事本数、リライト本数、内部リンク追加、CTR改善本数、CTA設置率 | 過剰な色分け・小数点過多 | 今週のリライト対象選定・タイトルAB実行 |
製造現場リーダー | 工程間WIP上限遵守率、一次不良48h是正率、検査スロット稼働率 | 月次の総括だけの静的数字 | WIP超過の解消・人員再配置・是正指示 |
3. ビュー分割:日次/週次/月次を混ぜない
1画面1目的の原則に従って、ビューを分けます。
4. 指標セットの作り方(先行性×可制御性)
ダッシュボードには「効くKPI」だけを載せます。判断の基準は以下の5つ。
- 先行性:上げ下げで数週〜数ヶ月後のKGIが動く
- 可制御性:担当が今日から行動で変えられる
- 明確性:分子・分母・対象・例外の定義が一意
- 測定可能性:自動取得できる(人手更新は最小)
- 頻度:日次または週次で更新され意思決定に使える
迷ったら実例へ:KPI例10選
5. 画面レイアウトとUI設計(実務ルール)
- ヒーローカード:最重要KPIを左上に(Fパターン)。目標との差、前日比、7日中央値。
- カードの順序:「量→質→スピード→品質ガード」の順。
- 1カード=1メッセージ:注釈は最小限。色は意味で限定(緑=達成、赤=未達)。
- グリッド:12カラム基準。モバイルは1列化し、最重要3枚だけ表示。
- 注釈ログ:施策メモ・異常理由はカードに紐づくコメントとして残す(監査に有用)。
6. チャート選定ガイド(迷ったらこれ)
目的 | 適切な表示 | 備考 |
---|---|---|
時系列の傾向 | 折れ線+7日中央値+目標線 | 平均より中央値がノイズに強い |
率×件数の関係 | 散布図 | 改善余地の可視化に最適 |
カテゴリ比較 | 横積み棒(3〜5カテゴリ) | 色は最小、凡例を明快に |
差分・達成状況 | 数値カード | 前日比/前週同曜日比を併記 |
避けたい:3Dグラフ、色の乱用、指標の詰め込み、二軸の多用。
7. 差分とロバストな計算方法
- 前日比:(今日 − 昨日) / 昨日
- 前週同曜日比:(今日 − 7日前) / 7日前(季節・曜日要因を除去)
- 移動中央値:過去7日/14日の中央値(外れ値に強い)
- P90/P95:「最悪ケース」の監視に有効(初回提案リードタイムなど)
8. アラート設計(固定しきい値+統計的検知)
行動に直結するアラートだけを鳴らします。過剰通知は無視の温床です。
- 固定しきい値:例「アポ獲得 < 10件/週」
- 統計的しきい値:移動中央値 − 2σ を下回ったら通知
- 連続条件:「2日連続未達」などの組み合わせでノイズを抑制
- Runbook:通知には切り分け・一次対策・責任者を添付(運用編テンプレ)
9. データSLO(品質基準)とエラーバジェット
項目 | 基準 | 測り方 | 対処 |
---|---|---|---|
Freshness | 毎朝 9:00 更新完了 | 最終更新時刻の自動記録 | 遅延時は自動通知→手動リフレッシュ |
Completeness | 欠損率 1%未満 | 行レベルの欠損監視 | ETL再取り込み/例外レポート |
Validity | 定義シート準拠 100% | スキーマ検証・ビジネスルール | バリデーション失敗で公開停止 |
エラーバジェット:月間の許容遅延・欠損の上限を明示し、超過時は機能追加より信頼性改善を優先。
10. データモデルとETL/ELT(最小構成)
- 取得元の一本化:営業=CRM、SEO=CMS+Search Console、製造=MES/QMS。
- 命名規則:指標は
domain_metric_grain
(例:sales_appointments_daily
)。 - スケジュール:毎朝9:00(JST)自動更新/失敗時はリトライ→通知。
- 履歴管理:日次スナップショットを保存(後日の係数分析用)。
11. 権限・監査・変更管理
- 閲覧:原則全員(透明性)。
- 編集:データ責任者のみ(変更ログ必須)。
- 注釈:施策・異常の理由をカードに紐づけて残す(学習資産化)。
- 変更申請:指標の追加/廃止は軽量RFC(目的・定義・影響範囲・ロールバック)。
12. 現場別サンプル画面(構成例)
12-1. 営業(日次ビュ—)
- カード1:週のアポ獲得件数(目標線/前日比/7日中央値)
- カード2:決裁者同席率(散布:同席率×受注率)
- カード3:初回提案までの中央値+P90(折れ線)
- カード4:上位プラン提示率(数値カード+部署別棒)
- アラート:2日連続同席率<50% → 招待テンプレの使用率をRunbook提示
12-2. ブログ/SEO(日次〜週次)
- カード1:新規記事本数(週計)/リライト本数
- カード2:公開7日以内の内部リンク追加数(記事あたり)
- カード3:タイトルABテスト本数とCTR差分
- カード4:CTA設置率(記事数に対する比率)
12-3. 受注生産(現場)
- カード1:工程間WIP上限遵守率(時系列)
- カード2:一次不良48h是正完了率(棒)
- カード3:検査スロット稼働率(時帯別ヒートマップ)
13. デザイン原則(見やすさは“意思決定速度”)
- 色は意味に限定(緑=達成、赤=未達、灰=参照)。
- 小数点は必要最小(%は小数1桁まで)。
- 単位と期間を凡例に常設(例:/週、営業日)。
- アクセシビリティ:コントラスト比、色覚多様性に配慮。
- ダークモードは夜間監視向けに用意(現場利用が多い場合)。
14. ローンチ手順(4週間ロードマップ)
- Week1:目的定義・ペルソナ・指標選定(3〜5)・定義シート作成(設計編)
- Week2:ETLとデータSLO整備(9:00更新・欠損監視)。βダッシュボード(目標線・中央値・差分)。
- Week3:アラート+Runbook実装。日次10分/週次30分の運用開始。
- Week4:月次レビューでKPI→KGIの波及を点検。効かないカードは入替。
15. 仕様テンプレ(コピーして使えます)
15-1. 指標定義シート(抜粋)
指標名 | 定義(分子/分母) | 対象/除外 | 取得元 | 更新頻度 | 締め時刻 | 責任 |
---|---|---|---|---|---|---|
週のアポ獲得件数 | 当週に日程確定した初回面談数 / 1週 | 再商談除外 | CRM+Calendar | 日次 | 09:00 JST | Inside Sales |
初回提案中央値 | 初回打合せ→初回提案の営業日差の中央値 | 特注案件除外 | CRM+DMS | 週次 | 月曜 10:00 | Sales |
内部リンク追加数 | 新規記事1本あたり公開7日以内の既存→新規リンク本数 | 非公開・下書き除外 | CMS+SEOクローラ | 週次 | 月曜 10:00 | 編集チーム |
15-2. カード仕様シート
【カード名】決裁者同席率 【目的】受注率とリードタイムに直結する先行KPIを日次で監視 【表示】数値カード+時系列折れ線(7日中央値・目標線)+散布(同席率×受注率) 【差分】前日比・前週同曜日比 【アラート】2日連続で50%未満 → 招待テンプレ使用率カードを同時点灯 【注釈】施策メモ(メールテンプレ修正、経営同席要請など)
16. よくある失敗と回避策
- 失敗:指標を詰め込みすぎ → 3〜5指標に絞り、残りは折り畳み。
- 失敗:人手更新が多い → ETL自動化・タグ/命名規約を先に整備。
- 失敗:“眺める会”になる → 日次10分で今日の打ち手を決め、翌朝検証。
- 失敗:色がうるさい → 意味に紐づく最小色だけ使用。
17. まとめ
ダッシュボードは行動を変える装置です。
目的→指標→ビュー→差分→アラート→運用の順で設計し、データSLOとRunbookで“止まらない”仕組みを作りましょう。
設計や指標例・運用の型は以下を参照してください。
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