繰上げ受給と繰下げ受給──どちらが自分にとって本当に得なのか、はっきり答えられる人は少ないかもしれません。
平均寿命が延びる一方で、働き方改革により60歳以降の就労スタイルは多様化し、受給開始年齢の選択肢はますます複雑です。
この記事では、制度の仕組みと年金額の変化をわかりやすい図表で整理し、「何歳まで生きれば得か」という損益分岐点を具体的に算出します。
さらに、健康状態・就業状況・家計バランスといった個別事情を踏まえた判断基準を提示し、リアルなケーススタディも紹介。
読み終える頃には、あなた自身が受給開始年齢を自信を持って決断できるようになるはずです。
繰上げ・繰下げ受給の基本を押さえよう
制度の仕組みと選択幅
繰上げ受給は60~64歳まで1か月単位で前倒しでき、1か月につき0.4%減額され終身続きます。
逆に繰下げ受給は66~75歳まで1か月単位で後ろ倒しでき、1か月につき0.7%増額。65歳を中心に最大▲24.0%から+84.0%まで振れ幅があるのが特徴です。
制度改正により2022年度から繰下げ上限が75歳まで広がり、「長く働くほど年金を増やせる」環境が整いました。
手続きと注意点
手続きは年金事務所か郵送で行いますが、繰上げは一度選択すると原則取り消せず、障害年金や寡婦年金など関連給付にも影響する点が要注意です。
また在職老齢年金の調整も受けるため、給与との合算を事前シミュレーションしておきましょう。
マクロ経済スライドとの関係
年金額は物価・賃金動向で毎年見直されるため、繰上げで早く受給しても将来的に実質価値が目減りする可能性があります。
逆に繰下げは物価連動する期間が延びるため、インフレ耐性が高いとも言えます。
年金額はこう変わる!率と早見表
基礎年金(国民年金)の増減率
基礎年金満額を月6万7,000円とした場合、60歳から繰上げると▲24.0%で月5万800円、75歳繰下げなら+84.0%で月12万3,000円へ倍近く増えます。
以下の早見表を参考にしてください。
開始年齢 | 増減率 | 月額(円) |
---|---|---|
60歳 | ▲24.0% | 50,800 |
63歳 | ▲9.6% | 60,500 |
65歳 | ±0% | 67,000 |
70歳 | +42.0% | 95,100 |
75歳 | +84.0% | 123,000 |
厚生年金モデルケース
報酬比例部分を含むモデル年金(月14万円)で試算すると、60歳繰上げで月10万6,000円、75歳繰下げで月25万7,000円と差は歴然。
就労収入と総合的に考えることが肝要です。
受給開始年齢別の累積受取額シミュレーション
65歳基準で年利0%と仮定した場合、累積受取額が追い付く年齢(損益分岐点)は、繰上げ60歳で71歳、繰下げ70歳で82歳、75歳で90歳が目安となります。
損益分岐点を計算してみよう
ライフエクスペクシーと分岐年齢
日本人の平均寿命(男性82.6歳・女性88.0歳)を前提にすると、繰上げ派は「短命リスク回避」、繰下げ派は「長生きリターン重視」という位置づけです。
ただし健康格差が広がる現代では主観的健康感も加味する必要があります。
簡易計算式とExcel活用
年金月額×12×(100−開始年齢)でおおまかな累積額を比較できます。具体的には「開始年齢65歳との差額を0にする年」を求めることで損益分岐点を可視化。
ExcelのNPV関数を使い利回りも考慮するとさらに精緻な判断が可能です。
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金利・インフレ要素の取り込み
将来の購買力を考慮するには実質利回りで割引く方法が有効です。
物価上昇率2%、年金改定率1%を前提にすると、繰下げの利益が縮小する場合もあるため、投資収益や年金の伸びをシナリオ分析しましょう。
判断基準:健康・就業・家計で考える
健康状態と平均余命
持病がなく家族歴も長寿なら繰下げ優位。一方、重い生活習慣病や喫煙歴がある場合は繰上げで早期に現金化した方が安心です。
医師の健康診断結果を踏まえ、リスクヘッジとして保険や貯蓄とのバランスを取ることが重要。
就業状況と給与水準
65歳以降も年収が200万円を超える場合、在職老齢年金により年金がカットされる可能性があります。
70歳までフルタイムで働く計画なら繰下げで年金額を上げ、収入減少後に高額受給で穴埋めする戦略が有効です。
家計キャッシュフローと流動性
退職金や投資資産が乏しく流動性が不足している家庭では、60代前半の現金収入を確保するため部分繰上げ(国民年金のみ繰上げ)も選択肢となります。
家計が潤沢なら繰下げで一生涯の定期収入を増やす「長寿保険」として機能させましょう。
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ケーススタディとシミュレーション
ケース1:会社員男性(60歳退職・再雇用)
年収300万円で65歳まで再雇用後、収入ゼロ想定。繰下げ70歳を選択し、70~90歳で受給額+42%のメリットを享受。NPV計算で85歳時点で繰上げより約460万円多い結果に。
ケース2:自営業女性(継続就労・国民年金)
70歳まで現役で年収150万円を維持する計画。国民年金を75歳まで繰下げ、月額12万円超へ増額。長寿リスク対策を兼ねつつ、70歳までの生活費は事業収入でカバー。
ケース3:夫婦世帯ミックス受給
夫:厚生年金を65歳受給、妻:国民年金を60歳繰上げ。合算で早期に生活費を確保しつつ、夫の死亡後は遺族厚生年金+妻の繰上げ年金でキャッシュフローを安定させるプラン。リスク分散効果が高い。
まとめ
受給開始年齢の選択は「健康・就業・家計」の三要素を軸に、損益分岐点とライフプランを突き合わせて判断することがポイントです。
短命リスクの不安が大きいなら繰上げで早期受給、長寿リスクに備えたいなら繰下げで生涯収入を最大化。
部分繰上げや夫婦の組み合わせといったカスタマイズも有効です。シミュレーションと専門家相談を活用し、あなたに最適な年金戦略を設計しましょう。
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