日本の商習慣において長年利用されてきた「紙の手形・小切手」が、2026年度末(2027年3月末)をもって完全に廃止されることが決まりました。
全国銀行協会(全銀協)はこれに伴い、手形・小切手の決済システムである「電子交換所」の運用も2027年4月に終了すると発表しています。
これは日本のビジネス文化において非常に大きな転換点です。
多くの中小企業経営者からは「準備期間が短い」「対応に不安がある」という声も聞かれる一方で、「ようやく非効率な慣行から脱却できる」という前向きな反応も見られます。
本記事では、なぜこの決定に至ったのか、そして今後の企業の対応策について詳しく解説していきます。
2026年度末まであと2年弱。紙の手形・小切手を利用している企業は早急な対応が必要です。
手形・小切手廃止の背景—なぜ今、見直されるのか?
手形や小切手は、かつての日本企業間取引で欠かせない決済手段でした。取引先に対する信用の証として、また資金繰りを調整する手段として長年活用されてきました。しかし、デジタル化が進む現代において、様々な課題が浮き彫りになってきたのです。
コスト負担の増大
手形・小切手の取引には、郵送料や印紙税といった目に見えるコストがかかります。特に印紙税は決済金額に応じて課税されるため、大口取引を行う企業ほど負担が大きくなります。例えば、1億円の手形を発行する場合、2万円の印紙税がかかるケースもあります。
私が取材した製造業の経営者は、「年間で数百万円の印紙税を支払っており、電子化されればその分が純粋なコスト削減になる」と語っています。加えて、紙媒体の管理や手続きも煩雑であり、事務処理の負担も無視できません。
紛失・盗難リスク
紙の手形や小切手は物理的な書類であるため、輸送中の紛失や盗難のリスクが常に存在します。過去には高額の手形が盗難に遭い、不正に現金化されるという事件も発生しています。こうしたセキュリティリスクは、デジタル化によって大幅に軽減できるでしょう。
資金繰りへの影響
手形は支払期日が設定されているため、実際に現金化されるまで時間がかかります。典型的な例では、発行から90日後や120日後といった長期の支払いサイクルが設定されることも少なくありません。
これは資金を受け取る側、特に中小企業にとって深刻な問題です。私が話を聞いた中小企業の経営者は「大企業からの支払いが手形で3ヶ月後になると、その間の運転資金に苦労する。それが電子決済で短縮されれば、資金繰りが格段に楽になる」と話していました。
実際、政府も「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)の強化を通じて、親事業者による長期の手形サイトを規制する動きを進めています。これは、大企業と中小企業の力関係の不均衡を是正する取り組みの一環とも言えるでしょう。
取引量の激減
かつては手形・小切手による決済が主流でしたが、電子決済の普及により取引量は急減しました。例えば、1990年には年間4,797兆円もの交換高があったものの、2024年には75兆円とピーク時の1.5%にまで縮小しています。
システムの維持コストと比較して利用頻度が下がれば、一件あたりの処理コストは上昇します。全銀協がシステム廃止を決断したのも、こうした経済合理性を考慮した結果と言えるでしょう。
個人的な見解ですが、手形や小切手の廃止は「時代の流れに逆らえなかった」というよりも、むしろ「遅すぎるくらいの対応」かもしれません。多くの先進国ではすでに電子決済が当たり前となっており、日本の商慣行の近代化は避けられない課題だったのです。
企業はどう対応すべきか?—代替手段と早期の移行が鍵
手形・小切手が廃止されることで、企業は新たな決済手段を導入する必要があります。主な選択肢として、以下のような方法が考えられます。
ネットバンキングの活用
最も手軽な代替手段として、ネットバンキングの利用が挙げられます。多くの企業がすでに活用しているため、移行は比較的スムーズでしょう。振込手数料は発生するものの、即時決済が可能であり、資金管理の透明性が向上します。
FinTech企業のCFOに取材したところ、「経理チームの工数削減にもつながり、結果的にコスト削減効果が大きい」とのことでした。特に、定期的な支払いや多数の取引先がある場合、一括処理機能などを活用することで業務効率化が期待できます。
電子記録債権(でんさいネット)
「でんさいネット(全銀電子債権ネットワーク)」は、手形の電子版とも言える仕組みです。電子化により、印紙税が不要となり、管理の手間も削減されます。手形と同様に債権譲渡も可能であるため、資金化の柔軟性も確保できます。
すでに多くの企業が導入を進めており、手形文化に慣れた企業にとっても比較的導入しやすい選択肢です。銀行関係者によれば、「でんさいネットの利用件数は年々増加しており、特に2023年以降、手形廃止を見越した問い合わせが急増している」とのことです。
企業間決済プラットフォームの活用
BtoB決済専用のプラットフォーム(例:マネーフォワードクラウド債権管理、freee会計の請求書決済など)を活用する企業も増えています。これらのサービスは、請求書の発行から入金管理まで一元化でき、業務の効率化に寄与します。
私自身、複数のクラウド会計ソフトを試用しましたが、取引データの自動取り込みや入金消込の自動化など、従来の手形管理よりも遥かに効率的です。特にバックオフィス人員が限られている中小企業にとって、こうしたツールの活用は業務効率化の大きな武器になるでしょう。
企業にとって、決済手段の変更は避けて通れませんが、むしろこれを業務刷新のチャンスと捉えてはいかがでしょうか。適切な方法を選択することで、業務のスムーズ化やコスト削減につながる可能性があります。
企業が今すぐ取り組むべきこと
2026年度末の廃止に向け、企業は今から準備を進める必要があります。具体的には、次のアクションを取るべきでしょう。
今すぐ始めるべき3つのステップ
- 現行の決済手段の洗い出し
- 取引先との決済手段を確認し、手形・小切手が使われているケースを特定する
- 手形サイト(支払期日までの期間)や取引金額を整理し、影響度を把握する
- 代替手段の選定と準備
- ネットバンキングや電子記録債権など、適切な代替手段を選ぶ
- 銀行やサービス提供企業に相談し、導入に向けた計画を立てる
- 社内の経理部門や財務担当者への研修を実施する
- 取引先との調整
- 取引先に決済手段の変更を事前に通知する
- 必要に応じて契約書や取引条件の見直しを行う
- スムーズな移行のために段階的に新決済手段へ移行する
特に、長年手形を使い続けてきた企業や取引先が電子決済に慣れていない場合、移行には時間がかかることが予想されます。私が取材した中小企業の経営者からは「取引先との調整に最も時間がかかりそうだ」という声が多く聞かれました。
実際、大企業と取引のある中小企業のケースでは、親会社の決済システム変更に合わせた対応が必要となるため、早めの情報収集と準備が欠かせません。したがって、今から準備を始め、徐々に新しい決済手段へシフトすることが重要です。
まとめ—変化をチャンスに
手形・小切手の廃止は、多くの企業にとって大きな転換点となります。しかし、これは単なる負担増ではなく、むしろ企業の資金管理を見直し、より効率的な決済手段へ移行するチャンスとも言えます。
実際、手形・小切手に頼らない企業はすでに多く存在し、電子決済の導入によって業務の合理化や資金繰りの改善を実現しています。今回の廃止を機に、企業の財務管理をよりスマートに進めることが求められています。
個人的には、この変革は日本企業の生産性向上にも寄与すると考えています。紙の書類や判子に依存した従来の業務フローから脱却し、デジタル化によって経理・財務部門の業務効率が向上すれば、より創造的な業務に人材を振り向けることができるでしょう。
変化に素早く対応できる企業が、今後の競争を勝ち抜いていくことは間違いありません。2026年度末の期限を見据え、今から準備を進めていきましょう。
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