不安を分解しても、最後に「結局どれから手を付ける？」で迷うことがあります。そんな時こそ役立つのが、確率×影響で不安を評価するリスクマトリクスです。
リスクは「起きる可能性（確率）」と「起きた時のダメージ（影響）」の掛け合わせ。紙やスプレッドシートで見える化すれば、感情に引っぱられずに優先順位を決められます。
この記事では、2×2／3×3の作り方、5段階スケールの決め方、3分→5分→15分の実践プロセス、そして回避・軽減・受容の打ち手までを初心者向けに丁寧に解説します。
準備がまだの方は、まず記事①（不安の分解の全体像）、記事②（書き出し）、記事③（特定の質問）で素材を整えてから戻ってきてください。
具体的なシーン別の当てはめは記事⑤（実例集）で深掘りします。
リスク評価の基本：確率×影響で不安を数値化
なぜ数値化で冷静になれるのか
数値化は、不安の大きさを「感じ」ではなく「比べる」モードに切り替えます。感情の波は強弱が激しく、昨夜は10点でも朝には3点に下がることがあります。
そこで、確率と影響をそれぞれ数段階で評価し、同じ物差しで並べてみると、右上（高確率×大影響）から着手すべき案件が自然に浮かびます。数値は完璧でなくて構いません。
重要なのは、同一ルールで繰り返すこと。これにより週次レビュー時のブレが減り、意思決定の速度と納得感が上がります（評価素材の集め方は記事③参照）。
2×2／3×3マトリクスの作り方
紙でも表計算でもOK。縦に影響（小→大）、横に確率（低→高）を取り、まずはシンプルな2×2から始めます。慣れてきたら3×3に拡張し、中間の判断を増やして精度を上げます。
各マスの意味を先に決めておくのがコツです。右上＝即対策、左上＝備えを用意、右下＝効率的に軽減、左下＝受容・観測。不安メモを付箋にして貼り替えられる形にすると、視覚的な優先順位が作れ、チーム共有にも便利です（書き出しは記事②）。
評価スケール：5段階で十分、運用を固定
確率・影響ともに1〜5の5段階で運用しましょう。例：確率1＝年1回未満、3＝月1回程度、5＝週1回以上。影響1＝気づけば解決、3＝半日止まる、5＝売上や健康に重大影響。各段階の定義文を1行ずつ作り、表の端に印刷しておくと判断がブレません。最初は荒くてOK。
週1の見直しで定義を洗練します。スコアは確率×影響で0〜25、8以上着手、5以下は観測など、自分ルールを先に決めておくと迷いが消えます。
評価プロセス：3分→5分→15分の実践手順
3分：候補を一気に出す（素材は記事②③から）
タイマー3分で、直近の不安を無検閲で列挙します。すでに記事②で書いたメモや、記事③の「対象・期限・影響」付きリストからコピーしても構いません。ここでは評価しないのが鉄則。
タグ（#仕事 #人間関係 #健康 など）を先頭に付け、似たものは後で束ねます。短時間で候補をテーブルに並べることで、脳の焦点が「反芻」から「整理」に移り、次の精査が速くなります。
5分：仮の確率・影響をサッと入れる
次の5分で、各項目に仮のスコアを入れます。迷ったら「より高い方」を一時採用し、後で下げる方針に。根拠が薄い場合は「？」印を付け、事実取得のタスク（例：15時に担当へ確認）を書き添えます。ここでは完璧さより速度重視。
粗い見積りでも、並べれば右上の危険群が見えてきます。数値の根拠作りは、メール履歴や進捗ボードなど既存データを優先して拾うと効率的です。
15分：優先順位→打ち手→スケジュール埋め
最後の15分で、右上から順に打ち手を当て、カレンダーに時間を確保します。打ち手はこの後の章で解説する回避・軽減・受容の三択。各項目に「誰が／いつまでに／完了条件」を記入し、今日の予定に5〜15分のブロックで配置します。
ここまで実施すれば、不安は「情報」から「行動」に変換されます。シーン別のスケジュール化例は記事⑤を参考にしてください。
打ち手の三択：回避・軽減・受容で迷わない
回避：やらない／撤退／順序変更でリスクを消す
回避は、最も効果が高い選択です。高影響×高確率で、かつ価値が相対的に低い案件はやめる・撤退するのが合理的。具体例：対象顧客の絞り込み、要件の再交渉、締切の再設定、依存タスクの順序入れ替え。
回避は時に勇気が要りますが、限られた時間と注意を守る最強の選択肢です。反発が出る場合は、数値と代替案を揃えて説明すると合意が得やすくなります（論点整理は記事③）。
軽減：予防・二重化・練習で確率か影響を下げる
軽減は、リスクのどちらか一方を下げる戦略です。確率低減＝チェックリスト・自動リマインド・レビューの前倒し。影響低減＝バックアップ、人員二重化、想定問答（練習）。例えばプレゼン不安は、事前の通し練習とスライドの印刷予備で確率・影響の両方を削れます。
軽減策は小さな投資で継続効果が高く、ルーチン化すると日々の不安の基礎値が下がります（ルーチン設計は記事②）。
受容：許容ラインと観測ルールを明文化
受容は「やらない」のではなく、「起きても良い範囲」を合意して見守る選択です。例：確率低×影響小の不安は「スコア5以下は放置、トリガー条件（件数や遅延日数）を超えたら再評価」などの観測ルールを設定。
受容の鍵は許容ラインを数字で決めること。主観的な不満が減り、レビュー時に建設的な会話ができます。受容した案件は、監視ダッシュボードや週次チェックで軽くモニタリングしましょう。
現場での当てはめ：個人・チーム・家庭で使う
個人（仕事・健康）：締切や検査の不安を整える
仕事の締切不安は「レビューの遅延」「関係者の予定」「自分の準備不足」に分解し、確率×影響で並べます。右上に来た「レビュー遅延（確4×影4）」には、前倒しレビュー依頼と予備日確保で軽減を。
健康診断前の不安は、検査項目ごとに確率・影響をラフに見積もり、生活習慣は5分の行動（水分摂取・就寝固定・軽運動）に分解。個人領域では、即実行できる微小行動がスコアを素早く下げる特効薬です（行動化は記事⑤）。
チーム（プロジェクト）：依存関係と情報遅延を管理
チームでは依存関係と情報遅延が不安の源泉です。WBSやカンバンにリスク列を作り、各タスクにスコアを付与。右上は毎朝のスタンドアップで確認し、代替ルートやバックアップ担当を事前に確保します。
確率は「過去の遅延頻度」、影響は「クリティカルパスとの距離」で定義するのが実務的。会議では感情論に入る前にマトリクスを画面共有し、同じ図を見ながら意思決定すると合意形成が早まります。
家庭・お金：突発出費や子育ての不安を言語化
家庭の不安は「突発出費」「ケガ・病気」「予定の崩れ」。突発出費は確率低×影響中〜大なので、緊急予備費（生活費の◯か月分）で影響を下げ、家計アプリのアラートで確率を体感的に下げます。子育ての予定崩れは、代替案リスト（実家・病児保育・在宅切替）を用意し、観測ルール（朝体温×2日で医療相談など）を決めておく。家庭領域では、事前合意と見える化が安心の土台になります。
継続改善：レビュー・指標・ツールで強くなる
週次レビュー：スコア推移と定義の見直し
毎週10〜15分、不安一覧のスコア推移を確認し、**消えた理由**と**残る理由**を一行で記録します。定義が曖昧で迷った箇所は、来週からの段階定義を更新。右上で対策したのに効果が薄い場合は、打ち手の種類（回避／軽減／受容）を切り替えて再評価。レビュー自体を習慣化することで、日常の不確実性に対する耐性が上がります（レビューの始め方は記事②）。
指標づくり：リスクスコアと対応完了率
運用の成熟度は2つのKPIで追えます。①週間の総リスクスコア（各不安の確率×影響の合計）—下降していれば良化。②対応完了率（右上タスクの完了数／割当数）—70％を目標に。これらをグラフにすると、ふわっとした安心感が客観的な改善として見えます。数字が伸びない時は、スコアの付け方ではなく、打ち手の粒度（5分タスク化）を見直しましょう。
ツール活用：シート・テンプレ・自動化で定着
最初は紙で十分ですが、継続にはテンプレと軽い自動化が有効です。表計算のテンプレにドロップダウンで確率・影響を選べるようにし、スコアは自動計算。右上に入ったらToDoへ自動転記する仕組みを作ると、抜け漏れが激減します。
スマホは入力、PCは整理と役割分担。テンプレの項目は記事⑤のサンプルをコピーして、自分用に最小構成へ削ぎ落としましょう。
まとめ（約360字）
確率×影響でのリスク評価は、不安を「感じ」から「比べる」に変える強力な手法です。2×2／3×3のマトリクスに並べ、5段階スケールで粗く数値化するだけで、右上から着手すべき案件が見えます。
プロセスは、①3分で候補列挙、②5分で仮スコア、③15分で打ち手決定とスケジュール化。打ち手は回避・軽減・受容の三択に絞り、週次レビューで定義とKPIを磨きます。
次は、シーン別の当てはめで練度を上げましょう。具体例とテンプレは記事⑤（実例集）へ。入口の考え方は記事①、素材の作り方は記事②、特定のコツは記事③にまとまっています。 ――――
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