退職をきっかけに、「配偶者の扶養に入るべきか、それとも自分で国民年金を払うべきか」で悩む人はとても多いです。
どちらを選ぶかによって、毎月の負担額や将来もらえる年金額、さらには働き方の自由度まで変わってくるので、迷って当然だと思います。
とくに、〈専業主婦(夫)になる/パートで少しだけ働く〉といったケースでは、第3号被保険者というキーワードも出てきてややこしく感じがちです。
年収の壁や、社会保険の扶養条件、国民年金を自分で払う場合の負担感など、考えることが一気に増えますよね。
この記事では、退職後に検討したい「配偶者扶養」「第3号被保険者」「自分で国民年金を払う」という3つの選択肢について、
・それぞれの仕組みと条件の違い
・どんな人に向いているか・損得の考え方
・退職前後にやっておくべき手続き・チェックポイント
をわかりやすく整理していきます。
なお、退職後の国民年金の保険料や免除・猶予の基本については
「退職後の国民年金はいくら?保険料の目安と免除・猶予をやさしく解説」、
過去の免除期間を追納して年金額を増やすか迷っている方は
「国民年金の追納は得か損か?メリット・デメリット解説と試算の目安も」
もあわせて読むと、全体像がさらにクリアになります。
第3号被保険者と配偶者扶養の基本を整理しよう
配偶者の扶養と第3号被保険者は「ほぼセット」だと考える
まず押さえておきたいのは、「配偶者の扶養」と「第3号被保険者」はかなり密接に結びついているという点です。
会社員や公務員として働く配偶者の健康保険の扶養に入ると、多くの場合、年金についても第3号被保険者として扱われます。 第3号被保険者になると、自分で国民年金保険料を払わなくても、国民年金に加入しているのと同じ扱いになります。
つまり、保険料負担なしで老齢基礎年金の受給資格期間にカウントされる、というイメージです。
この「保険料ゼロなのに加入扱い」というのが、第3号被保険者の大きなメリットです。
ただし、誰でもなれるわけではなく、配偶者の加入状況や自分の年収などの条件があるため、そこをきちんと理解しておく必要があります。
第1号・第2号・第3号被保険者の違いをざっくり把握
年金の世界では、加入者を大きく3つの区分に分けています。
- 第1号被保険者:自営業・フリーランス・無職など、自分で国民年金を払う人
- 第2号被保険者:会社員・公務員など、厚生年金に入っている人
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている配偶者(一定の条件あり)
退職した本人は、基本的に第1号被保険者(国民年金を自分で払う人)になります。
一方、その配偶者が会社員・公務員であれば、退職した本人が扶養に入ることで第3号被保険者になれる可能性があります。
つまり、退職後の選択肢としては、
・自分で国民年金を払いつづける第1号でいくか
・配偶者の扶養に入り、第3号を目指すか
という2本立てで考えることになります。
「扶養」と「税金の配偶者控除」は別物なので注意
ややこしいポイントとして、「社会保険の扶養」と「税金の配偶者控除」は別ルールで動いている、という点があります。
一般的に、社会保険の扶養に入るための年収ラインと、配偶者控除の年収ラインは必ずしも一致しません。 そのため、
・社会保険上は扶養から外れる年収でも
・税金上はまだ配偶者控除の対象になる
といったケースもありえます。
この記事では主に社会保険と年金(第3号被保険者)に焦点を当てて解説しますが、最終的には税金面も含めて総合的に判断する必要があります。
年収が増えてきたタイミングでは、会社の総務+税理士や税務署の情報も合わせて確認するのが安心です。
第3号被保険者の条件と「年収の壁」を理解する
第3号被保険者になれる基本的な条件
第3号被保険者になるためには、ざっくり次のような条件を満たす必要があります。
- 配偶者が第2号被保険者(厚生年金加入者)であること
- 自分が20歳以上60歳未満であること
- 原則として配偶者の収入に生計を維持されていること
- 自分自身の年収が、健康保険組合などの基準を下回っていること
ここでいう「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にあるパートナーを指します。
事実婚であっても、条件によっては第3号として認められることがありますが、その扱いは加入している健康保険組合によって異なります。
退職後すぐに第3号になれるかどうかは、配偶者の勤務先と健康保険の種別によっても変わってくるため、まずは配偶者の会社の総務に確認するのがおすすめです。
よく聞く「年収の壁」はどのあたり?
第3号被保険者や扶養の話で必ず出てくるのが、「年収の壁」という言葉です。
代表的なラインとしては、次のようなものがあります。
- おおむね年収130万円:社会保険の扶養に入れるかの目安(協会けんぽなど)
- 106万円・150万円・201万円など:勤務先や保険の種類によって変わるライン
退職後にパートで働く場合、
・「年収をこのくらいに抑えれば第3号でいられる」
・「これを超えると自分で社会保険・年金に入る必要が出てくる」
といったルールが勤務先によって変わります。
同じ「年収の壁」でも、税金の配偶者控除の壁と社会保険の壁は別なので、ここを混同しないように注意が必要です。
迷ったら、「この勤務先でどこまで働いたら、社会保険に加入になりますか?」と総務に聞いてしまうのがいちばん早いです。
年収をあえて「壁の内側」に抑えるのはあり?
第3号被保険者でい続けるために、あえて年収を壁の内側に抑えるという選択をする人も多くいます。
たとえば、「年収120万円程度にしておき、社会保険料の負担をゼロにしつつ、第3号のメリットを享受する」という発想です。 これは、
・家計のバランス
・子育てや介護などの時間的な制約
・自分のキャリアへの考え方
などによって、メリットにもデメリットにもなりえます。
短期的には手取りが増えやすい一方で、長期的には
・自分自身の厚生年金の上乗せが少なくなる
・キャリアの選択肢が狭まる可能性がある
といった側面もあります。
どこまでを「扶養の内側」で行くかは、パートナーとのライフプランの共有も含めて、じっくり話し合いたいポイントです。
自分で国民年金を払う場合のメリット・デメリット
第1号被保険者としての「自由」と引き換えの負担
退職後に第3号ではなく、あえて第1号被保険者として国民年金を自分で払う道を選ぶ人もいます。
このケースでは、年収の壁を気にせず仕事を増やせるという大きなメリットがあります。 たとえば、
・フリーランスとしてガッツリ稼ぎたい
・パート収入を増やしていきたい
・将来のキャリアアップを優先したい
という人にとっては、扶養の枠に収まらないほうがかえって動きやすい場合があります。
一方で、国民年金保険料(月1万数千円前後)を自分で負担することになるため、毎月のキャッシュフローは確実に重くなります。
この「自由」と「負担」のトレードオフが、第1号で行くか第3号を目指すかを決めるうえでの大きな論点です。
老後の年金額という観点から見た違い
老後の年金額の観点で見ると、
・第3号被保険者:保険料負担ゼロで国民年金部分(基礎年金)はカバーされる
・第1号被保険者:自分で国民年金を払い、さらに厚生年金(第2号)になれば上乗せも狙える
という違いがあります。 もし将来的に再び正社員として働き、第2号被保険者に戻る予定があるなら、
・一時的に第1号として国民年金を払い
・その後厚生年金で上乗せを狙う
というルートも現実的です。
逆に「しばらくはバリバリ働くつもりはない」という場合、第3号で基礎年金部分だけでも確保しておき、その分を他の貯蓄や投資に回すという考え方もあります。
このあたりは、先に触れた
退職後の国民年金保険料と免除・猶予
の記事も参考にしながら、全体のバランスを見て判断するのがおすすめです。
免除・猶予制度と追納という「保険」を知っておく
第1号被保険者として国民年金を払う場合でも、収入が少ないときには免除や猶予制度を使えることを知っておくと安心です。
「払えないから未納」ではなく、「払えないから免除・猶予を申請する」というスタンスを取れば、将来の年金へのダメージをかなり抑えられます。 また、免除や猶予にした期間については、余裕が出てきたタイミングで追納することもできます。
追納をすることで、老後の年金額を底上げすることができ、「今はきついけれど、あとで取り戻す」という柔軟な戦略も取れます。
追納のメリット・デメリットや、元が取れるかどうかの考え方については、
国民年金の追納は得か損か?メリット・デメリット解説と試算の目安も
で詳しく取り上げていますので、合わせてチェックしてみてください。
ライフスタイル別|第3号か第1号かのおすすめパターン
専業主婦(夫)・短時間パート中心の場合
「当面はフルタイムで働くつもりはなく、家事や育児・介護を優先したい」という場合、第3号被保険者を軸に考えるのが現実的な選択肢になります。
年収を扶養範囲内に抑えることで、国民年金保険料を自分で払わずに済むメリットが大きいからです。 このパターンでは、
・社会保険の扶養に入れる年収ラインを把握する
・その範囲内でどのくらい働くのが家計的にベストか考える
・税金の配偶者控除とのバランスも確認する
といったステップで整理すると、モヤモヤが減っていきます。
「子どもが小さいうちは第3号、その後フルタイム復帰して第2号へ」というライフプランもよくある形なので、今のフェーズで何を優先するかを夫婦で話し合うことが大切です。
将来的にフルタイム復帰・キャリアを伸ばしたい場合
「子育てが落ち着いたらまたフルタイムで働きたい」「自分のキャリアを伸ばしたい」という思いが強い場合は、早めに第1号→第2号のルートを意識しておくのも一つの選択肢です。 具体的には、
・一時的に第3号で負担を減らしつつスキルアップや資格勉強をする
・準備が整ったら第1号(フリーランス)や第2号(正社員)として本格的に働き始める
といったステップで、「扶養の内側」と「外側」の両方を使い分けるイメージです。
この場合、年収の壁に縛られすぎると、せっかくの仕事のチャンスやキャリアアップの機会を逃してしまうこともあります。
「中長期的に見て、自分の人生にとってどちらがプラスか」という視点で、第3号にとどまるか第1号へ進むかを考えていきましょう。
フリーランス・個人事業を本格化させたい場合
退職をきっかけにフリーランスや個人事業主として独立したい人にとっては、基本的に第1号被保険者として国民年金を払いながら、事業を育てていくことになります。 このパターンでは、
・国民年金の保険料を「事業コストの一部」として見込んでおく
・収入が不安定な時期には免除や猶予も検討する
・一定の所得が見込めるようになったら、小規模企業共済やiDeCoなども併用する
といった形で、年金だけに頼らない複数の柱を作っていくのが現実的です。
配偶者が第2号被保険者で、第3号に入れる条件を満たしているなら、「事業の立ち上げが落ち着くまで一時的に第3号」という選択もありえます。
ここでも、退職後の国民年金の扱いや免除・追納といった情報は、
退職後の国民年金はいくら?保険料の目安と免除・猶予をやさしく解説、
国民年金の追納は得か損か?メリット・デメリット解説と試算の目安も
が参考になるはずです。
退職前後にやっておきたい手続きとチェックリスト
退職前に配偶者の勤務先へ確認しておくこと
退職が見えてきた段階で、まずやっておきたいのが配偶者の勤務先への確認です。
具体的には、次のような点を事前に聞いておくと安心です。
- 社会保険の扶養に入るための年収基準はどのくらいか
- 第3号被保険者の手続きに必要な書類やタイミング
- パートやアルバイトで働く場合、どの時点で自分で社会保険に加入することになるか
健康保険組合によって微妙にルールが違うことも多いので、ネット情報だけで判断せず、必ず会社の総務・人事から一次情報を取るのがポイントです。
「あのときちゃんと聞いておけばよかった…」を防ぐためにも、退職前の余裕があるうちに確認しておきましょう。
退職後1か月でやるべきことをリスト化する
退職後の最初の1か月は、年金・健康保険・雇用保険など、手続きが集中する時期です。
次のようなリストを作っておくと、抜け漏れを減らせます。
- 国民年金への切り替え or 第3号被保険者の申請
- 健康保険(任意継続 or 国保 or 配偶者の扶養)の手続き
- ハローワークでの失業給付の手続き
- 必要に応じて、国民年金の免除・猶予申請
特に国民年金の切り替えは原則14日以内という目安があるため、優先度を高めに設定しておくのがおすすめです。
ここをきちんと押さえておくと、「後から記録が抜けていた」「未納期間ができてしまった」といったトラブルを防ぎやすくなります。
将来の年金額をざっくり確認し、不安の「正体」を見える化
最後に、ねんきん定期便やねんきんネットを使って、将来の年金額のイメージを一度確認しておくと、漠然とした不安がかなり減ります。
現時点の加入状況から、
・このまま第3号で行く場合
・第1号として国民年金を払う場合
・いずれ第2号として厚生年金に再加入する場合
などをシミュレーションしてみると、「自分はどこを強化すべきか」が見えやすくなります。 そのうえで、退職後の国民年金の扱いや追納の有無を考えると、感情だけでなく数字も根拠にした判断ができるようになります。
不安をゼロにすることは難しくても、「何が不安なのか」を言葉と数字で見える化するだけで、かなり心が軽くなるはずです。
まとめ|第3号か国民年金かは「今のお金」と「将来の安心」のバランスで決める
退職後に配偶者の扶養に入って第3号被保険者になるか、自分で国民年金を払う第1号で行くかは、どちらが絶対に正解というものではありません。
大切なのは、
・今の家計と生活スタイル
・将来の働き方やキャリアの希望
・老後資金をどこまで年金に頼るか
といった要素を総合して、「自分たちにとってバランスが良い選択」を見つけることです。
第3号は保険料負担ゼロという大きなメリットがある一方、年収の壁に縛られる面もあります。
第1号として国民年金を払うのは負担ですが、そのぶん働き方の自由度が上がり、将来の年金やキャリアの選択肢を広げることもできます。
まずは、退職後の国民年金の基本と
追納のメリット・デメリットも合わせて押さえたうえで、配偶者や家族と率直に話し合ってみてください。
完璧な答えを出そうとするより、「今のベスト」を選びつつ、状況に応じて柔軟に見直していくことが、結果的にいちばん安心な年金戦略になります。

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