国民年金の「追納(ついのう)」と聞くと、「老後の年金額が増えるならやったほうがいいのかな?」と同時に、「今まとまったお金を払うのは正直しんどい…」という気持ちもわいてきますよね。
特に退職後で収入が不安定な時期だと、追納すべきかどうかの判断は本当に迷うところです。
そもそも追納とは何なのか、そして本当に得なのか損なのかを考えるには、「将来の年金がどれくらい増えるのか」と「今いくら払うのか」を、ある程度数字でイメージすることが大切です。
とはいえ、細かい計算式や法律の条文を読み込むのは大変なので、この記事ではざっくりとしたシミュレーションの考え方を中心に、メリット・デメリットを整理していきます。
また、退職後の国民年金保険料や免除・猶予の基本については、すでに別記事
「退職後の国民年金はいくら?保険料の目安と免除・猶予をやさしく解説」
でまとめていますので、「そもそもの保険料や免除って何?」という方は、あわせて読んでいただくと理解が深まります。
さらに、配偶者の扶養(第3号被保険者)に入るか、自分で国民年金を払うか迷っている場合は、
「配偶者の扶養に入る?自分で国民年金を払う?第3号被保険者の条件と損得比較」
もセットで読むことで、追納を含めた年金戦略をトータルで考えやすくなります。
国民年金の追納とは?退職後に気になる基礎知識
追納の意味と「未納」「免除」との違い
追納とは、一言でいうと「過去に免除・猶予された国民年金保険料を、あとから自分の意思で払うこと」です。
ここで重要なのは、「未納をあとから払う」のではなく、「あくまで免除や猶予として扱われていた分を追いかけて納める」という点です。 未納は、払うべき保険料を期限までに払っていない状態で、将来の年金額にも原則反映されません。
それに対して免除・納付猶予は、経済的な事情などを理由に、届け出をしたうえで「払わない(払えていない)期間」として認められている状態です。
追納できるのは、この免除・猶予になっていた期間であり、あとからまとめて払うことで、その分の将来の年金額を増やすことができる、という仕組みになっています。
まずは、「未納」と「免除」「追納」がきちんと区別されている、という点を押さえておきましょう。
どの期間を追納できる?期限とルールの基本
追納にはできる期間と期限が決まっています。ざっくりとしたイメージとしては、
「免除・猶予を受けた年度の翌年度から起算して10年以内なら追納できる」
というルールがあります。 例えば、2023年度に全額免除を受けた場合、その年度分の保険料は、おおむね2034年度末くらいまで追納できるイメージです。
ただし、追納する年度が後になるほど、当時の保険料に「加算金(利息のようなもの)」が上乗せされる場合もあります。
そのため、
・追納するなら早めに動くほど負担が少なくなりがち
・いつまで追納できるかはねんきん定期便や年金事務所で要確認
と理解しておくとよいでしょう。
退職後に追納が話題になりやすい人のパターン
退職をきっかけに、過去の国民年金を見直す人に多いのが、次のようなパターンです。
- 学生時代に学生納付特例を利用していた
- 20代〜30代前半にかけて、所得が低くて免除や猶予を受けていた
- フリーランス転身時などに保険料免除を選んでいた
これらの時期は、どうしても収入が少なかったり不安定だったりするため、「とりあえず免除でしのぐ」という判断をすることが多くなります。
そして40代以降、退職や転職を機に「老後の年金、大丈夫かな?」と不安になり、過去の免除期間を追納して年金額を底上げしたほうがいいのではと考える…という流れになりやすいのです。
自分がどのくらい免除・猶予期間を持っているのかは、ねんきん定期便・ねんきんネットで確認できます。
まずは現状把握をしたうえで、「追納を検討する価値がありそうか」を考えていくのがスタートラインです。
国民年金を追納するメリット
老齢基礎年金が増える仕組み
追納の一番わかりやすいメリットは、老齢基礎年金の受取額が増えることです。
国民年金は原則40年(480か月)しっかり納めると満額という考え方なので、未納や免除期間があると、その分だけ受取額が減ってしまいます。 免除・猶予期間を追納すると、その期間が「きちんと保険料を納めた期間」として扱われるようになり、将来の年金額がその分アップします。
金額のイメージとしては、追納する月数が多いほど、年金の増加額も大きくなります。
例えば、
・1年間分の免除期間を追納すると、老後の年金が年間数千円〜1万円程度増える
・それが20年・30年と続くことで、総額では数十万円〜100万円以上の差になる
といったイメージを持っておくと、追納の意味がつかみやすくなります。
障害・遺族年金の安心感が高まる
老齢年金だけでなく、障害年金・遺族年金の受給要件にも、国民年金の加入・納付状況が大きく関わってきます。
一定期間内に未納が多いと、万が一のときに障害年金が受け取れないケースもあり、ここは見落とされがちなポイントです。 免除や猶予をきちんと申請していれば、その期間は原則として「未納」ではなく「免除期間」としてカウントされ、要件の面でも有利になります。
さらに、その免除期間を追納することで、「保険料をきちんと納めた期間」が増え、制度上の安心感はより高まります。
老後のことだけでなく、働き盛りの世代にとっても、障害年金・遺族年金は家族を守る大切なセーフティーネットです。
追納は、単に「老齢年金を増やすための投資」というより、「家族を含めた保険の土台を補強する行為」とも言えます。
税金・社会保険料の節税効果もある?
国民年金の保険料は、「社会保険料控除」として所得税・住民税の計算上、所得から差し引くことができます。
追納した分も同様に控除の対象になるため、追納をした年は所得税・住民税が少し安くなる効果が期待できます。 例えば、所得税と住民税を合わせて税率20%程度と仮定すると、追納した金額の20%前後が税金の軽減として戻ってくるイメージです。
30万円追納した場合、単純計算で6万円ほど税負担が軽くなる可能性がある、という感覚ですね。
もちろん、実際の税率や控除の状況によって差はありますが、
・追納=将来の年金が増える
・さらに当年の税金も少し軽くなる
という二重のメリットがあることは、判断材料として知っておいて損はありません。
国民年金追納のデメリット・注意点
今の家計負担が増える&加算金の存在
追納の一番のデメリットは、当然ながら「今、まとまったお金が出ていく」ことです。
退職後や収入が不安定な時期にとっては、数十万円単位の支出はかなり重く感じられます。 さらに、免除や猶予から時間がたつほど、追納する保険料には「加算金」が上乗せされることもあります。
これはざっくり言うと、「本来の保険料+利息のようなもの」であり、早めに追納したほうが加算金が少なくて済む仕組みです。
そのため、
・生活費や緊急資金を削ってまで無理に追納すると、本末転倒になりかねない
・追納するなら家計に余裕が出てきたタイミングで検討する
といった視点が重要になります。
元が取れないケースも?寿命・ライフプランとの関係
追納の判断でよく話題になるのが、「元が取れるかどうか」という視点です。
追納して年金額が増えると言っても、その増えた分をどれくらいの期間受け取れるかは、人それぞれの寿命やライフプランによって変わります。 例えば、30万円追納して年金が年間3万円増える場合、単純計算では10年受け取れば元が取れる計算です。
しかし、
・そもそも年金をもらい始める年齢
・健康状態や老後の生活プラン
・他の資産(貯金・投資・持ち家など)
によって、「追納したほうが安心」と感じるか、「別の備えに回したほうがいい」と感じるかは変わってきます。
追納はあくまで老後資金対策の一つであり、絶対にやらないといけないものではありません。
自分や家族のライフプランの中で、どの程度年金にウェイトを置くかを考えながら判断することが大切です。
追納より優先すべき「生活防衛」と他の選択肢
もう一つの大事なポイントは、追納よりも優先すべき支出・貯金がある、という現実です。
特に退職直後は、
- 当面の生活費(半年〜1年分程度)の確保
- 急な病気やケガへの備え
- 高金利の借金(リボ払いなど)の返済
など、まず守るべきものがたくさんあります。 これらを十分に確保できていない状態で追納に資金を回すと、「老後の安心のために、今の生活が不安定になる」という逆転現象が起きかねません。
まずは生活防衛資金を整え、それでも余裕があるなら追納を検討する、くらいの順番感で考えると良いでしょう。
ざっくり試算!追納は得か損かを判断する考え方
超シンプル「何年で元が取れるか」シミュレーション
細かい数式を使わなくても、追納のざっくり試算は「何年で元が取れるか」で考えるとスッキリします。
ステップとしては、とてもシンプルです。
- ① 追納に必要な総額(例:30万円)を確認する
- ② 追納により年金が年間どれくらい増えるかを確認(例:3万円/年)
- ③ 「追納額 ÷ 年間の増加額」で元が取れる年数を計算
この例だと、30万円 ÷ 3万円=10年なので、「10年以上年金を受け取ればプラス」というイメージになります。
もちろん、実際には税金の控除や物価変動なども絡みますが、まずはこのくらいのラフな計算からでも十分です。
この「元が取れるまでの年数」が、
・自分の健康状態や家族の長寿傾向
・現時点の年齢
などを踏まえて、現実的かどうかを考えてみると、追納への納得感が変わってきます。
金利・運用を踏まえた考え方と心構え
もう少し踏み込んで考えるなら、「追納に使うお金を別の資産運用に回した場合」との比較も頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
たとえば、追納に30万円を使う代わりに、年利2〜3%程度で運用した場合、
・10年後には元本+運用益
・その後も資産として残る
というパターンもありえます。 一方、国民年金は終身で受け取れる「長生きリスク」に備える保険としての側面が強く、単純な利回りだけでは測りきれない安心感もあります。
「追納=最強の投資」でもなければ、「追納=お金の無駄」でもなく、
「長生きリスクをカバーする一つの手段」として位置づけるのが現実的なスタンスです。
最終的には、
・どこまで年金制度を信頼するか
・どれだけ自力で資産運用する自信があるか
といった価値観も絡んできます。
数字だけで答えが出るというより、「数字+自分の感覚」でバランスを取るイメージを持つとよいでしょう。
退職後の資金計画全体の中でどう位置づけるか
追納の判断は、退職後の資金計画全体の中で考えることが重要です。
老後のお金は、国民年金だけでなく、
- 企業年金・iDeCo・つみたてNISAなどの運用資産
- 預貯金や退職金
- 配偶者の年金・収入
といった複数の柱で構成されます。 その中で、国民年金の追納は「老齢基礎年金という土台を少し増やす」行為です。
退職後の国民年金保険料そのものや、免除・猶予の基本は、
退職後の国民年金はいくら?保険料の目安と免除・猶予をやさしく解説
で整理していますので、まずはそちらで全体像を押さえたうえで、追納をどこに位置づけるか考えるのがおすすめです。
さらに、配偶者の扶養や第3号被保険者の仕組みを活用できる場合は、
配偶者の扶養に入る?自分で国民年金を払う?第3号被保険者の条件と損得比較
も参考にしつつ、「追納」だけにこだわらない柔軟な年金戦略を組み立てていきましょう。
追納すると決めたら|手続きの流れとベストタイミング
追納の具体的な手順と相談窓口
追納を検討する、または決めた場合は、まず年金事務所や市区町村の年金窓口に相談するところからスタートします。
相談の際には、ねんきん定期便や本人確認書類を持参して、
- どの期間が免除・猶予になっているか
- どの期間を追納できるか(10年ルールの確認など)
- 追納額のおおよその総額
を確認してもらいましょう。 そのうえで、
・一括で追納するのか
・年度ごとに分けて少しずつ追納するのか
といった支払い方の選択も含めて相談できます。
窓口の担当者は、同じような相談を多く受けているので、「こんなこと聞いていいのかな」と遠慮せず、率直に不安をぶつけて大丈夫です。
どの期間から優先して追納するのが良いか
追納できる期間が複数ある場合、どの年度から優先的に追納するかも大事なポイントです。
一般的には、
- 加算金が増える前の、古い年度分から優先的に追納する
- 老後の年金額への影響が大きい期間(長期間の免除など)を重視する
といった考え方がよく使われます。 とはいえ、ここもケースバイケースで、
・手元資金とのバランス
・今後の収入見込み
・他のライフイベント(住宅購入、教育費など)
によって、最適な順番は変わりえます。
「どの年度分から追納するべきか」は、年金事務所で相談すると具体的にアドバイスをもらえるので、
・今払える金額の上限
・いつまでにどれくらい追納したいか
といった希望も合わせて伝えるとスムーズです。
払わない/払えないときの代替策と関連記事の活用
いろいろ検討した結果、「やはり今は追納は難しい」「少額しか追納できない」という結論に至ることもあります。
その場合でも、
- これ以上未納を増やさない(免除・猶予をきちんと申請する)
- 老後資金をiDeCoやつみたてNISAなど別の形で積み上げる
- 配偶者の扶養制度(第3号)をフルに活用できないか検討する
といった代替策があります。 退職後の国民年金保険料や免除・猶予の基礎は、
退職後の国民年金はいくら?保険料の目安と免除・猶予をやさしく解説
で、配偶者の扶養との比較は、
配偶者の扶養に入る?自分で国民年金を払う?第3号被保険者の条件と損得比較
でそれぞれ詳しく解説しています。
追納だけにとらわれず、これらの記事も参考にしながら、「自分の家計にとって一番安全で続けやすい選択肢は何か」を考えていくことが、結果的にいちばんの近道になります。
まとめ
国民年金の追納は、「過去の免除・猶予期間の保険料をあとから払うことで、将来の年金額を増やす」ための手段です。
老齢基礎年金が増える、障害・遺族年金の安心感が高まる、当年の税負担が軽くなるなどのメリットがある一方、今の家計負担が増える・加算金がかかる・元が取れないケースもあり得る、といったデメリットも存在します。
得か損かを判断するには、「何年で元が取れるか」というシンプルな試算と、自分や家族のライフプラン・価値観を合わせて考えることが大切です。
そのうえで、生活防衛資金の確保や、退職後の国民年金保険料・免除制度、配偶者の扶養制度など、周辺の選択肢も含めてトータルで判断していきましょう。
完璧な答えを出そうとするより、まずは年金記録の確認と年金事務所への相談という小さな一歩から始めることが、将来の不安を減らすいちばんの近道です。

コメント