会社を辞めたあと、まず最初に直面する悩みのひとつが「健康保険をどうするか」です。
とくに多くの人が迷うのが、「今までの会社の健康保険を任意継続するか」「国民健康保険(国保)に切り替えるか」という選択です。しかもこの判断、のんびり悩んでいる時間はほとんどありません。任意継続には退職日の翌日から20日以内、国保の手続きは退職日から14日以内と、それぞれに期限があるからです。
とはいえ、「どっちが得か」は人によってまったく違います。
保険料の計算方法、扶養家族の有無、住んでいる自治体、収入見込み…これらの条件によって、任意継続が圧倒的に安くなる人もいれば、国保のほうがかなりお得になる人もいます。ネットで「任意継続がおすすめ」「いや国保一択」などと書かれていても、自分の場合にそのまま当てはめるのは危険です。
この記事では、退職後に迷いやすい「任意継続 vs 国保」問題を、初心者にもわかりやすく整理します。
それぞれの制度の仕組み、保険料のざっくりした計算イメージ、家族構成別の有利・不利、そして退職後14日〜20日以内に何を決めればよいかをステップ形式で解説します。
読み終えたころには、「自分はどちらを選ぶべきか」の方向性がはっきりして、決断の不安がかなり減っているはずです。
退職後の健康保険「任意継続」と「国保」の基本
任意継続とは?会社の健康保険を最長2年延長できる制度
任意継続(健康保険の任意継続被保険者制度)とは、会社を退職したあとも、一定の条件を満たせば最長2年間まで、在職中と同じ健康保険(協会けんぽや健康保険組合など)に加入し続けられる制度です。
本来なら退職と同時にその会社の保険の資格を失いますが、「もう少しだけ今の保険を使いたい」という人のために用意された“延長オプション”のようなイメージです。
ただし、在職中と違うのは保険料を全額自分で払う点です。
在職中は、保険料の半分を会社が負担してくれていましたが、任意継続になると、会社負担分もふくめて全額自己負担になります。その代わり、扶養家族もそのままカバーできる、給付内容は原則在職中と同じといったメリットもあります。
任意継続に加入するには、
・退職日の前日までに継続して2か月以上(多くは1年以上)その健康保険に加入していること
・退職日の翌日から20日以内に申請書を提出すること
などの条件があります。
この期限を過ぎてしまうと、あとから「やっぱり任意継続にしたい」と思っても二度と戻れないので注意が必要です。
国民健康保険(国保)とは?退職者の受け皿となる自治体の保険
国民健康保険(国保)は、自営業・フリーランス・無職の人などが加入する、市区町村が運営する健康保険です。会社員や公務員をやめて「どの健康保険にも入っていない」状態になった人は、原則として国保か任意継続のどちらかを選ぶことになります。
国保の保険料は、
・前年の所得
・加入者の人数
・住んでいる市区町村(自治体ごとに金額が違う)
などによって決まり、所得が少ない人は保険料も低くなる仕組みになっています。
国保への切り替え手続きは、退職日の翌日から14日以内に、住んでいる自治体の役所で行うのが原則です。
「任意継続にするかまだ迷っているから」といって何もせずに放置すると、一時的に無保険状態になってしまう可能性もあるため、14日という期限は頭に入れておきたいところです。
どちらも「加入か未加入か」を選ぶタイミングがシビア
ここまでのポイントをまとめると、退職後の健康保険は、
・任意継続:退職日の翌日から20日以内に申請が必要
・国保:退職日の翌日から14日以内に手続きが必要(加入は義務)
という、なかなかタイトなスケジュールで決めなければなりません。
しかも、任意継続は一度やめると再加入できない、国保も保険料はさかのぼって請求されるなど、どちらも「とりあえず放置」が通用しない仕組みになっています。
だからこそ、退職前の余裕があるうちに、自分の場合どちらが有利かの方向性だけでも決めておくことが、とても大切なのです。
保険料の違いをざっくり把握する
任意継続の保険料は「在職中の約2倍」が目安
任意継続の保険料は、基本的に在職中に払っていた本人負担分のおよそ2倍が目安になります。
在職中は会社と折半していたため、たとえば毎月2万円を給与から天引きされていた人であれば、任意継続になると月4万円前後になるイメージです。
ただし、健康保険組合によっては、「標準報酬月額の上限」で計算されるケースもあります。
この場合、退職直前の給料が高かった人でも、任意継続になってからは保険料が下がることもあるため、一概に「任意継続=高い」とは言い切れません。
ポイントは、
・退職前の給与明細で健康保険の本人負担額を確認する
・協会けんぽや健保組合のサイトで任意継続の保険料試算をチェックする
この2つです。ざっくりでも数字を見ておくと、「思っていたより高い/安い」が具体的にわかります。
国保の保険料は「前年所得+人数+自治体」で決まる
一方、国保の保険料は、前年の所得、加入人数、住んでいる自治体の保険料率などをもとに計算されます。
そのため、
・前年の収入が高かった人 → 国保の保険料も高くなりがち
・前年収入が少なかった人、今年から無収入になる人 → 国保がかなり安くなることも
という特徴があります。
注意したいのは、「退職して収入がゼロになったから、すぐ国保が安くなる」というわけではない点です。
国保の保険料計算のベースはあくまで前年の所得なので、今年たくさん稼いで退職した人は、翌年の保険料が重くのしかかることもあります。
自治体のホームページには、たいてい国保保険料の計算シミュレーターが用意されています。
ざっくりした年収と世帯人数を入力するだけでも、おおよその金額がわかるので、一度試してみる価値があります。
家族がいる場合は「1枚で何人カバーできるか」が重要
独身の人と、配偶者や子どもがいる人では、任意継続と国保の「お得ライン」が大きく変わります。
なぜなら、任意継続では在職中と同じように、扶養家族を追加料金なしでカバーできることが多いのに対して、国保では一人ひとりが加入者としてカウントされ、人数分保険料がかかるからです。
たとえば、
・本人のみ → 国保のほうが安くなるケースが多い
・配偶者+子ども2人 → 任意継続のほうがトータルで安くなるパターンも多い
といった具合に、同じ収入でも家族構成次第で結論が逆転します。
このあたりも、ざっくりで構わないので、任意継続と国保それぞれで「家族全員分のトータル保険料」を比較してみることが大切です。
どっちが有利?タイプ別の考え方
任意継続が向いている人の特徴
まず、次のような人は任意継続のメリットが大きくなりやすいタイプです。
・退職前の収入が比較的高く、国保にすると保険料がかなり高くなりそう
・配偶者や子どもなど扶養家族が多い(任意継続なら追加保険料なしでカバー)
・これまでの健康保険の給付内容に安心感があり、できれば変えたくない
・退職後しばらくは無職または収入が少ない見込みで、2年以内に再就職する予定
任意継続は最長2年という期限付きなので、「2年以内に次の職場で社会保険に入るつもり」という人との相性が良いです。
逆に、今後長期的にフリーランスでやっていくつもりなら、最初から国保に切り替えて将来設計を立てたほうがスッキリすることもあります。
国保が向いている人の特徴
一方、次のような人は国保を選んだほうが有利になるケースが多いです。
・前年の所得があまり高くない、または今年から大幅に収入が減る見込み
・単身、もしくは扶養家族が少ない
・今後もしばらくは自営業・フリーランス・アルバイトなどで働く予定
・住んでいる自治体の国保保険料が比較的低い
国保は所得に応じて保険料が決まるため、収入が少ない人に優しい仕組みでもあります。
また、市区町村によっては、子育て世帯や低所得世帯向けの独自軽減を行っているところもあるので、「自分の市の国保はどういう制度か」をチェックしておくと、判断材料が増えます。
迷ったら「2年トータル」と「ライフプラン」で比較する
任意継続と国保を比較するとき、つい「月々いくらか」だけを見てしまいがちですが、実は
・2年間トータルで見てどちらが安いか
・自分の今後の働き方・ライフプランにどちらが合っているか
という2つの視点で考えるのがおすすめです。
たとえば、
・任意継続:月3万円 × 24か月=72万円
・国保:初年度月2万円、翌年所得減で月1.2万円として=約38.4万円
というように、1年目より2年目の保険料が大きく下がるケースもあります。
短期の金額だけを見ると「任意継続でもいいかな」と思えても、2年トータルでは国保のほうがかなり安くなる、というパターンも少なくありません。
また、「1年以内に再就職予定」「フリーランスで長くやっていく」などのライフプランによっても、どちらを選ぶのが自然かは変わってきます。
数字+将来の働き方の両方から、自分に合うほうを選ぶイメージで考えてみてください。
退職後14日〜20日以内にやるべきこと
退職日が決まったらまずスケジュールを書き出す
退職後の健康保険で慌てないために、いちばん大事なのはスケジュールの見える化です。
退職日が決まったら、カレンダーに次のような日付を書き込んでみましょう。
・退職日(=その保険の資格喪失日)
・退職日の翌日(任意継続・国保の起算日)
・任意継続の申請期限(退職日の翌日から20日以内)
・国保加入手続きの目安(退職日の翌日から14日以内)
これだけでも、「いつまでに何を決めないといけないのか」が、一気にクリアになります。
スマホのカレンダーアプリにリマインダーをセットしておくのもおすすめです。
保険料の目安をざっくりでも試算しておく
次に、任意継続と国保の保険料の目安を、ざっくりでいいので把握しておきます。
・任意継続 → 退職前の給与明細から健康保険料(本人負担分)を確認し、だいたい2倍をイメージ
・国保 → 自治体のホームページの国保保険料シミュレーターで入力してみる
正確な数字までは出さなくても、「任意継続のほうが明らかに高い/安い」「国保が思った以上に重い」といった大まかな印象だけでもつかんでおくと、決断のハードルがかなり下がります。
決めたら迷わず申請・手続きへ動く
どちらを選ぶかの方針が決まったら、あとは期限内に動くのみです。
・任意継続にする → 退職後すぐに、協会けんぽや健保組合のサイトから申請書を取り寄せ・提出
・国保にする → 退職証明書や離職票などを持って、自治体の窓口で国保加入手続き
任意継続と国保のどちらを選んだとしても、「保険証が手元に届くまで」にタイムラグが発生することがあります。
その間に病院にかかる可能性がある場合は、一時的に窓口で全額支払い、あとで保険証が届いたタイミングで清算や払い戻しの手続きを行うこともあります。
重要なのは、とにかく無保険状態をつくらないことです。
多少手続きが前後しても、期限を守ってどちらかの保険に加入しておけば、あとから調整がきく場合が多いので、まずは一歩を踏み出すことを優先しましょう。
注意したい落とし穴とQ&A
任意継続をやめたあと、やっぱり戻ることはできない
よくある勘違いのひとつが、「とりあえず任意継続にして、ダメなら国保に変えればいいや」という考え方です。
実際には、任意継続は途中でやめたら二度と戻れない制度です。
また、保険料の滞納が続くと強制的に資格喪失になることもあります。
「任意継続にしたけど保険料がきつすぎて払えない」という状態は本末転倒なので、申請前に無理のない支払いができるかどうかを、必ず確認しておきましょう。
国保の手続きを遅らせると後からまとめて請求されることも
国保は加入が義務の制度なので、「仕事を辞めてしばらく無保険のままでいいや」と放置してしまうのは危険です。
手続きを先送りにすると、あとから役所に行ったときに、退職時点までさかのぼって保険料が請求されることがあります。
さらに、その間に病院にかかっていた場合は、保険の適用可否や自己負担額の調整が複雑になることも。
「そのときはそのとき」ではなく、退職後はできるだけ早く国保か任意継続か、どちらかに加入しておくのがおすすめです。
迷ったときは「自治体・保険者・社労士」に相談を
任意継続と国保の比較は、どうしても個別の条件によって結論が変わります。
収入、家族構成、住んでいる自治体、今後の働き方──これらが絡み合うので、「ネット記事だけで判断するのが不安」という人も多いはずです。
そんなときは、
・住んでいる市区町村の国保担当窓口
・協会けんぽや健保組合などの相談窓口
・場合によっては社会保険労務士(社労士)
といった専門家に、「自分のケースだとどんな選択肢があるか」を相談してみるのも一つの方法です。
そのうえで、この記事の内容を「予習」として活用していただければ、質問のポイントも整理しやすくなります。
まとめ:退職後の健康保険は「期限内に、自分の条件で」選ぶ
退職後の「任意継続 vs 国保」問題は、誰にとっても正解がひとつに決まるテーマではありません。
大切なのは、
・任意継続は在職中の保険を最長2年延長できるが、保険料は全額自己負担
・国保は前年所得・人数・自治体で保険料が決まり、収入が少ない人には有利
・退職後の14日〜20日以内に、どちらかへの加入を決めて手続きする必要がある
という基本ルールをおさえたうえで、
「自分の収入・家族構成・今後の働き方」に照らして判断することです。
この記事を読みながら、
・退職日のカレンダーへの書き込み
・任意継続と国保のざっくり試算
・家族全員分の保険証・マイナ保険証の確認
といった“小さな一歩”から始めてみてください。
14日〜20日という短い期限の中でも、ポイントさえ押さえておけば、「なんとなく」ではなく「納得して選んだ」と言える健康保険の形をつくることができます。
あなたが退職後も安心して医療を受けられるよう、このまとめが少しでもお役に立てばうれしいです。

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