ジャパンディスプレイ(JDI)は、国内の正社員・契約社員を対象に希望退職を募集し、1483人の応募があったと公表しました。
退職関連費用は約95億円、年間の人件費削減は約135億円を見込むとしています(退職は2027年3月末まで順次)。
この発表は、長期にわたる赤字と構造改革を巡る同社の苦境と再建策を、あらためて社会に突きつける出来事でした。
事実関係のポイント
- 希望退職の募集期間は2025年6月16日〜8月25日。応募は1483人、海外子会社でも83人の削減を実施。退職加算金や再就職支援あり。
- 関連費用は約95億円(2026年3月期に順次計上)。人件費は年135億円削減見込み。
- 最終的に国内従業員は約1000人規模へ。茂原工場の生産終了、石川MULTI-FABへの集約なども併せて進行。
「国策会社」論の現在地——INCJはすでに撤退、筆頭株主はいちごトラスト
JDIは設立以降、官民ファンド(旧・産業革新機構、現INCJ)による多額の支援で“国策会社”と評されてきました。
しかし2025年3月、INCJはJDI株を全て売却し持分を0%にしています。つまり、少なくとも株主としての公的支援は一区切りついています。
一方で現在の筆頭株主はいちごトラスト(持株比率約78%)で、資本提携・新株予約権等を通じて財務基盤のテコ入れを継続しています。
それでも「国民の理解」は得られるのか
ここからは筆者(=本記事の依頼者)の見解です。
官民ファンドによる支援は、技術・雇用・産業インフラを守るという大義がある一方、長期の巨額投資が十分なリターンを生まずに終わるなら、国民の理解は得られません。
実際、INCJはJDIへの投融資で大きな損失を抱えたまま出口を迎え、回収が想定に届かなかったことが公表資料等から読み取れます。
「吊るすべきものは潰し、損切りを」
私は、延命のための延命は避けるべきだと考えます。公的資金が関わる場合ほど、明確なKPI・期限・撤退条件を設け、「成果が出なければ損切りする」原則を徹底すべきです。
JDIのケースは、結果として私企業(いちごトラスト)が主要リスクを担う形に移行しましたが、もっと早い段階で“支援継続の条件”を厳格に運用していれば、公的負担はさらに小さくできたのではないかと感じます。
反対意見への向き合い方
- 産業政策の観点:「潰すと技術・雇用が失われる」という主張は重い論点です。が、支援は無期限・無条件ではなく、市場規律とセットであるべきです。
- 再チャレンジの余地:人員削減や工場再編で収益構造を軽くしたうえで、民間資本のもとで再挑戦するのは選択肢になり得ます。JDIの希望退職・コスト削減の数値は、その前提作りの一環と解釈できます。
今後の「公的関与の設計指針」——延命でも、損切りでもない第三の道
- 条件付き支援(サンセット条項):支援は期間・KPIを明文化し、未達なら自動終了。
- 回収可能性の担保:優先株・新株予約権・知財の共有化など、成果と連動する回収メカニズムを標準化。
- オープンな情報開示:支援理由・KPI進捗・出口設計を定期的に公開し、国民への説明責任を果たす。
- 人への投資の切り出し:仮に損切り判断となる場合でも、労働移動と再教育(リスキリング)には厚く資金を回す。
- 市場規律の活用:アクティビストやPEの役割を前提に、民間の再編機能を阻害しない制度設計。
結論——「成果なき延命」から「規律ある関与」へ
JDIの希望退職とコスト削減は、民間主体の再建に舵を切るための通過点に見えます。
だからこそ、公的関与が必要な局面では、成果なき延命ではなく、規律ある関与と潔い損切りを原則に据えるべきです。
納税者の理解を得る最短経路は、厳格な条件設計と透明性、そして人への再投資にあります。
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