年末が近づくと「年末調整だけで税金は終わり」と思いがちですが、実は年末調整では反映できない控除や収入があると、翌年に確定申告で対応する必要があります。
たとえば副業・2か所給与・医療費控除・住宅ローン控除の初年度・ふるさと納税の条件不一致などは、会社任せでは完結しません。
知らずに放置すると税負担が増えるだけでなく、場合によっては申告漏れにもなり得ます。
この記事では、年末調整と確定申告の違いをまず整理し、つづいて「年末調整では対応できない代表ケース」をやさしく解説します。さらに、申告しないと損をする典型パターン、準備~提出の具体的ステップ、会社員でも確定申告をしたほうが得になる活用法まで、スマホ前提で読みやすくまとめました。
読み終えるころには「自分はどちらで、いつ何をすべきか」がクリアになり、来年の還付をムダにしない準備が整います。
年末調整と確定申告の基本的な違いを整理しよう
年末調整は「会社が行う給与所得の年内精算」
年末調整は、会社が12月に給与から天引きされた源泉所得税を年間の見込みと照合して精算する仕組みです。提出するのは、扶養控除等申告書・保険料控除申告書・配偶者控除申告書、そして保険会社等から届く控除証明書など。
対象は基本的に給与所得のみで、会社が把握する範囲に限られます。したがって、給与以外の所得や年の途中で発生した特殊な控除は、ここには反映されません。年末調整は「会社が代わりにやってくれる年内清算」と理解すると、守備範囲が見えてきます。
確定申告は「自分で翌年に最終計算・申告する」
確定申告は、翌年の2月16日〜3月15日(還付申告は1月から可)に、1年分の所得と控除を自分で集計・申告する制度です。副業(事業・雑所得)、不動産所得、株式・FX等の譲渡や配当、さらに年末調整後に追加したい医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税)などもここで反映できます。
e-Taxやスマホ対応が進み、マイナンバーカードがあればオンラインで完結可能。年末調整が「標準精算」だとすれば、確定申告はパーソナライズされた最終決算です。
「いつ・誰が・何を」するのかで見分けると迷わない
区別のコツは、いつ(年末 or 翌年)・誰が(会社 or 自分)・何を(給与のみ or すべて)の3軸で考えること。年末調整=年末/会社/給与の精算、確定申告=翌年/自分/総合的な精算です。つまり、給与以外の所得や、会社が扱えない控除を足したい・修正したいなら確定申告が必要。
逆に、給与だけで完結し、提出書類の不備もないなら年末調整で終了します。まずは自分の1年を棚卸しし、どこまで会社で賄えて、どこからが自分の出番かを切り分けましょう。
年末調整では対応できず、確定申告が必要な主なケース
① 副業・2か所給与・アルバイト収入がある(20万円基準に注意)
副業収入(事業・雑所得)や2か所以上からの給与がある場合、年末調整だけでは完結しません。特に本業のほかにアルバイト給与があると、会社は他社の給与や源泉徴収を把握できないため、確定申告で合算が必要です。
よく話題になる20万円ルールは所得税の申告要否の目安ですが、住民税は別途申告が必要になることが多い点に注意。また副業を会社に知られたくない場合は、確定申告書の住民税欄を「普通徴収」にチェックする運用もあります。いずれにせよ、収入と源泉徴収票をもれなく集め、正確に合算しましょう。
② 医療費控除・セルフメディケーション税制を使いたい
年間の医療費が10万円(所得により下限変動)を超えた、あるいは対象の市販薬購入が多い年は、年末調整では反映できないため確定申告で控除します。家族分を生計一として合算でき、通院の交通費も条件付きで対象。
病院から届く医療費通知や領収書をもとに、国税庁サイトの医療費集計フォームへ入力すれば、スマホでも作成可能です。高額療養費や保険金で補填された分は差し引く必要があるため、給付の有無もメモしておくとスムーズ。還付額が数万円になることも珍しくありません。
③ 住宅ローン控除の初年度は「必ず」確定申告
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、初年度のみ確定申告が必須です。2年目以降は年末調整に引き継げますが、初年度に提出を忘れると税額軽減を受け損ねます。
準備するのは、年末残高証明書・登記事項証明書・売買(請負)契約書の写し・源泉徴収票・マイナンバーカード等。新築・中古・認定住宅などで要件や控除期間が異なるため、購入時の書類フォルダをまとめておき、申告前に再確認を。なお入居年が基準であること、床面積や居住用割合の要件があることも押さえておくと、記入で迷いません。
確定申告をしないと損をする「申告漏れ」パターン
① ふるさと納税ワンストップ特例の条件を外していた
5自治体以内・確定申告不要が前提のワンストップ特例ですが、6件以上の寄附をした、または年の途中で転居して申請先に住所変更を出していない等のケースは、特例適用外となり確定申告が必要です。
さらに、医療費控除や株式の損益通算など、ほかの理由で確定申告をするなら、ふるさと納税も申告側に一本化したほうが整合的で、還付が早い傾向にあります。
寄附先・受領証明書・寄附金受領書メールをフォルダ分けし、自治体数と住所一致を年内に点検しておくと安心です。
② 生命保険料・地震保険料の控除証明を年末調整で出し忘れ
年末調整で控除証明書の提出を失念すると、保険料控除が反映されず税額が高止まりします。ただし救済策として、翌年の確定申告で控除を追加すれば還付が受けられます。
生命保険料控除(新・旧契約)や地震保険料控除は、証明書が必須。保険会社のマイページや郵送書類で再発行できることが多いため、1〜2月のうちに書類を回収しましょう。
あわせて社会保険料(国民年金・国保)を自己負担した分があれば、領収書を探して申告に含めると、還付の上積みが期待できます。
③ 配偶者控除・扶養控除が年末時点の見込みとズレた
年末調整は「見込み」に基づくため、配偶者や家族の収入が年末に判明すると、控除の要件や区分がズレることがあります。たとえば配偶者のパート収入が想定より上がって控除額が変わった、子のアルバイト収入で扶養要件に影響が出た、など。
こうした誤差は確定申告で修正し、正しい税額に調整可能です。提出前に、配偶者(特別)控除の判定表を見直し、源泉徴収票・給与明細を元に実額で再計算しておくと、申告作成コーナーで迷いません。結果的に還付になることも多い論点です。
確定申告の準備と手順をわかりやすく解説
① まずは「書類の箱」をつくる(源泉徴収票・証明書・領収書)
準備の最短ルートは、机の上に「確定申告ボックス」を作ること。ここに源泉徴収票・保険料控除証明書・住宅ローン年末残高証明・医療費通知や領収書・寄附金受領証明書・マイナンバーカードなど、関係しそうな紙やPDFのプリントをひたすら放り込みます。副業がある人は売上・経費のメモ、証憑のスクショも併せて印刷。
証明書は再発行に時間がかかることもあるため、1月中に欠品を洗い出し、早めに請求しておくと安全です。まずは集める、次に並べる――この順番が近道です。
② 国税庁サイトまたはe-Taxアプリで入力・自動計算
書類がそろったら、国税庁「確定申告書等作成コーナー」かe-Taxアプリで入力します。給与は源泉徴収票の数字を写すだけで、控除は画面の質問に答える形式なので、初めてでも手順に沿えば迷いにくい設計です。
医療費集計フォームや住宅ローン控除は自動計算が効き、株式の特定口座年間取引報告書も転記すればOK。マイナンバーカードがあれば電子申告で完了、カードがなくてもID・パスワード方式や書面提出で対応できます。途中保存しながら、1セクションずつ進めましょう。
③ 期限・入金スケジュール・よくあるミスを把握する
還付申告は1月から提出可、支払いが発生する人は2/16〜3/15が目安です。振替納税を設定すれば口座引き落としで手間を減らせますし、還付金は2〜3週間程度で入金されるのが一般的。ミスで多いのは、添付書類の不足、ふるさと納税の自治体数カウント漏れ、配偶者(特別)控除の判定違い、副業の経費証憑の紛失など。
提出直前チェックリストを作り、控除証明・残高証明・受領証の3点は最後にもう一度だけ声に出して確認すると安心です。
会社員でも確定申告をした方が得するケース
① 株・投信・先物など金融取引の損益通算・繰越控除
特定口座で源泉徴収済みでも、損益通算で税負担を軽くできる場合があります。たとえば年内に損失が出た銘柄があるなら、配当や他銘柄の利益と相殺可能。さらに翌年以降3年間の繰越控除も、確定申告をしておかないと使えません。
NISAは非課税枠で別管理ですが、課税口座での結果は見逃さず記録を。証券会社の年間取引報告書を申告書に転記するだけで、思わぬ還付や将来の節税余地が広がります。金融取引が活発な人ほど、年1回の棚卸しとして申告メリットが大きくなります。
② 共働き・子育て世帯の医療費・教育関連支出の最適化
共働き家庭は、医療費控除や市販薬のセルフメディケーション税制、社会保険料控除の扱いで、誰が申告すると得かが変わります。たとえば医療費は生計一の合算が原則なので、所得の高い方で控除を取ると節税効果が大きくなることも。
出産や矯正歯科など高額イベントの年は、領収書・給付金・交通費の整理を前提に、確定申告で取りこぼしを一掃します。教育費そのものは控除対象外でも、寄附金控除や保険料控除など周辺項目を総点検する価値があります。
③ ふるさと納税は「申告一本化」でスッキリ&早い還付
ワンストップ特例は便利ですが、医療費控除・株式取引・副業などで確定申告をするなら、寄附も申告にまとめるのが賢い選択です。受領証明書を添付して入力すれば、住所変更の連絡漏れや自治体数の数え違いといった特例特有のリスクを回避できます。
さらに、申告経由のほうが処理が一体化する分だけ、還付スピードが体感として早いことも。12月の駆け込み寄附は控除上限の計算ミスが出やすいので、シミュレーターで余力を確認してから、年内の寄附総額をメモしておきましょう。
まとめ:会社任せにしない一手で、来年の負担を軽くする
年末調整は「会社が行う標準精算」、確定申告は「自分が行う最終決算」。この役割分担を理解すると、どの年に何をすべきかが一気に明確になります。副業・2か所給与・医療費控除・住宅ローン控除初年度・ふるさと納税の条件漏れ――いずれも確定申告で取り戻せるお金が潜む代表例です。
まずは書類を箱に集め、国税庁サイトまたはe-Taxで1セクションずつ入力。還付申告は1月からOKなので、思い立ったが吉日です。会社任せの「見込み」から一歩進み、あなたの家計に合った最適解で、新年のスタートを軽くしましょう。

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