「一気に結果を出す人」はどうしても目に留まりやすいものです。
新規案件の立ち上げやトラブル対応で短期間に状況をひっくり返せば、その瞬間はドラマチックで評価も集まりやすくなります。
しかし、仕事は本来、長いレースです。華やかな瞬間がいくつか並んでも、その合間を支える地道な運用や信頼の積み上げがなければ、最終的なスコアは伸びにくいと考えます。
本記事では、成果の出し方を短距離走型とマラソン型という二つの走り方で捉え直してみます。
二つの走り方:短距離走型とマラソン型
短距離走型の働き方は初速が鋭く、意思決定が速く、周囲を巻き込んで立ち上がりで差をつけられます。
新規事業の0→1や、納期が迫る修羅場、社外に強い合図を出したい局面では、こうした瞬発力が局面を切り開きます。
結果が短期に可視化されるため、組織内の評価にもつながりやすい特徴があります。
一方、マラソン型の働き方は派手さはありませんが、着実に強さを発揮します。納期順守や品質安定、顧客接点の継続といった当たり前の積み重ねが、やがて大きな信頼の貯金になります。
プロセスや標準を整えることで、成果は個人技からチームの再現可能な力へと変わっていきます。
小さな改善の複利は時間とともに効いてきますので、長い目で見れば大きな差につながりやすいと感じます。
短距離走型の効能と限界
短距離走型は新規立ち上げや危機対応の「突破力」をもたらします。その一方で、高出力を続ければ息切れを起こしやすく、成功が属人的になりやすいという限界もあります。
本人が抜けた瞬間に同じ結果が再現できない仕事は、チームの力として定着しにくいものです。
さらに、駆け抜けた後の“後片付け”、すなわち仕組み化・引き継ぎ・改善の整理が後回しになると、次の挑戦の土台が薄いまま残ってしまいます。
マラソン型の強さと課題
マラソン型は信頼の積み上げと再現性の確立によって、組織の底力を高めます。ただし、目立ちにくいため評価設計を誤ると貢献が見過ごされやすく、慎重さが行き過ぎると勝負所で意思決定が遅れる場面もあります。
したがって、「どちらが正しいか」を議論するよりも、「いつ、どのように走り分けるか」を考えることが重要だと考えます。
走り分けの設計:日常はマラソン、要所は短距離
実務では、日常運用の大半をマラソン型で進め、要所で短距離走型に切り替える設計が現実的です。
たとえば、週間の過ごし方の八割程度を運用・品質・コスト・顧客満足の底上げにあて、残り二割を“勝負枠”として、推出や巻き返しが必要なタスクに集中投下します。
障害対応やタイトな交渉、リリース直前の詰めは短距離で一気に走り切り、採用・育成、ナレッジ共有、標準化・自動化、評価制度やKPI整備といった領域はマラソンの時間で淡々と前進させていくイメージです。
個人にできる実装:時間・可視化・後片付け・回復
個人レベルでは、まずカレンダーに“地力づくり”の時間を先に確保してしまうことをおすすめします。毎朝の三十分を改善・学習・レビューに固定し、週に一本は「今週の勝負タスク」を前週のうちに宣言しておきます。
短距離のラッシュを終えた直後には、必ず三十分の“後片付け”を入れ、作業手順の簡潔なメモ化、テンプレートの作成、関係者への共有まで行います。こうした小さな儀式が、属人的な成功をチームの資産へと変えていきます。
見えにくい努力は、指標で静かに可視化すると効果的です。短距離では重要タスクの完了数や意思決定のリードタイムを、マラソンでは品質指標やリピート率、改善数、標準化の進捗を定点観測します。数字は自分のペースメーカーになります。
感覚に頼らず淡々と記録することで、無理のない配分が見えやすくなります。さらに、短距離の後は睡眠や軽い運動、外乱を遮断する時間を入れて、意図的に回復する習慣を持つと出力のムラが抑えられます。
夕方に創造的な意思決定を詰め込まず、午前中に寄せるだけでも効果があります。
マネジメント視点:役割配分・評価設計・レビュー運用
チームづくりでは、立ち上げや対外戦に強い人と、運用・改善に強い人を意図的に組み合わせ、その間をつなぐ“橋渡し役”を配置することが有効です。
評価は二層に分けます。短期のインパクトや危機対応といった瞬発の貢献と、安定運用・標準化・育成・引き継ぎといった平常の貢献を別レーンで測定します。
運用としては、月次で品質・コスト・納期・満足度を粛々とレビューし、四半期では勝負局面の事後レビューを行います。成功・失敗の具体を抽象化し、再現可能な形に落とし込めたかどうかを確認すると良いと考えます。
採用・育成では、短距離が得意な人には「仕組みを残す技術」を、マラソンが得意な人には「決め球の作り方」を教え、ローテーションを通じて両刀型人材を増やしていきます。
「もったいない」を防ぐ視点
短距離の栄光の後に整理をしないまま成功がその場限りで消えてしまうこと、平常運転の改善が雑用扱いになって評価からこぼれ落ちること、短期と長期の議題が同じ会議で混線してどちらも浅く終わってしまうこと――こうした“もったいない”は、走り方の設計と可視化によって多くが防げます。
設計が曖昧なまま根性で走り続けるほど、生産性は落ちやすくなります。
結び:長い時間の総合点で勝ち切るために
最終的に私たちが競っているのは、一瞬の順位ではなく長い時間の総合点です。短距離走型は突破力を、マラソン型は土台の強さをもたらします。
日常はマラソンで底を厚くし、要所で短距離に切り替える。この走り分けができる個人とチームは、静かに、しかし確実に強くなっていくと考えます。
まずは明日の三十分を“地力づくり”にあて、今週の“勝負”を一本決めてみてください。さらに、成功の後に三十分の“後片付け”までやり切れたとき、その成果はあなたお一人のものから、組織の資産へと姿を変えていきます。
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